無口な男と無表情な少女、口の悪い小動物が旅をしている。
地表のほぼ全てが水に覆われて、人々は水から顔を出すビルなどで生活している。移動にはボートを使う。赤と白の縞のゴムボートで、日の暮れた頃着いたのは灰色のアパート。オレンジ色の大きな外灯がひとつあって、水面に映って綺麗だが淋しげである。
中に入るとどちらかというと寮のような雰囲気。ここに来ることを決めたのは男で、彼は以前からここを知っているらしい。
アパートには様々な種族が暮らしていて、種族間の争いを見て育った少女と小動物は戸惑う。
「ここはなんなの? みんなが一緒に暮らすなんてできないわ」
「でもここはアパートだからね」
と虫頭人の管理人が少し困ったように言う。彼は6階に住んでいるそうだ。
彼によると、今日はこの辺りで花火が上がるらしい。少女は花火が見たかったが、男は用事をさっさと済ませて去ろうとする。
管理人が焼いていた豚肉をパンに挟んで少女に渡した。
「ありがとう。また来ます」
少女は急いで男に追いつくと、ボートに乗り込んで温かいうちにとサンドイッチを齧った。肉は薄味で、カリカリに焼けていて、脂が口の中で柔らかくほどけた。
「おいしい」