そして、人間は反復不可能だし、再生不可能なんです。『エロってなんだろう?/山本直樹』

amy
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公開:2026/1/17

山本直樹の『エロってなんだろう?』を読んだ。

発売された当初から気になっていたのだが、この世にはおもしろそうな本やそのほかコンテンツがたくさんあるため、やや後回し気味になっていた。

内容は山本直樹のエッセイに近いが、表現規制の歴史や、それが起こった時代の空気が押さえられていて、そのへんについてはぼんやりとしか理解していなかったので自分でも整理できてよかった

途中までは、ほほお、なるほどなあ。いや、このへんは全然知らなかったわーと思っていたのだが、第四章【隠すことにもルールがいる?】のラストのほうに”社会的な約束事をちゃんと理解していないと作品は作れないんですよね。エロはとくに。そこをちゃんと理解していないと、作り手としてダメだと思うんですよね。”と言い切ったあたりから、第五章【現実とフィクション】に入り、様子が少し変わってくる。

第五章で山本直樹はずっと現実と他者のことを書いている。もっと言うと他者を人間として扱うこと、現実こそが他者=人間であることをずっとずっと書いている。

過去に描いた作品のことからもあれこれは言えないけれども、と前置きをしながらも”相手を道具扱いしていまう諸悪の根源が「現実とフィクションの混同」なんだと思います。これが一番性質が悪い。”と言っている。

それを皮切りに現実の事象と照らし合わせながら、現実を生きている人間を道具扱いすることの最たるものは国家が行う戦争であり、あれは人の命よりも国体の護持が大事なのだと若者を特攻させた、現実とフィクションを現実しているのがロシアのプーチンであり、彼のなかのフィクションの邪魔をするからという理由でプーチンはウクライナへ侵攻した、などである。

この本のレーベルであるちくまプリマー新書は公式サイトの紹介文を見る限り、若い年齢だと思う。

そんな読者層を想定してか、山本直樹は話がおおごとになってきているかもしれないが、こういうことを話し出すとこんなことまでいかざるをえないのだと誠実な言葉も記している。

また新自由主義も批判していた。新自由主義はつまるところお金原理主義であり、人の命よりもお金が大事だと本気で思っている人たちがやっていることで、そもそも人の命よりも大事なものがあるというのは、全部「原理主義」なのだと。

人の命という現実よりも、お金や国家や会社なんかのフィクションが大事であるというのは山本直樹に言わせれば現実とフィクションの混同だ。

現実の相手よりも、自分の中にある言葉ですべてをコントロールしたくなる。現実とフィクションの混同=マチズモと言ってもいいと思います。p109

刊行時に公開されていた目次では知っていたのだが、エロからどう持っていくんだ?と予想していなかった項目がある。

それが『日本国憲法』だった。

山本直樹本人も”さっきから話がどんどんエロから離れまくっていますが”と前置きしたうえで彼が考える日本国憲法について書いていた。

日本国憲法もただの言葉ではありますけれど、「人が生きて暮らして死ぬのがいちばん大事だよ。それより大事なものはないよ」と伝えている言葉です。p112

つまり日本国憲法という人が生きて、暮らして、死ぬことが何より大事だという言葉はフィクションではない。日本国憲法に書かれている言葉はフィクションではなく現実である。

でも言葉がフィクションであるときもある。

世界の古今東西はそれはもう残虐な歴史があって、人より言葉(フィクション)が大事だった場面のほうが圧倒的に多く、だからこそ、今はそれが間違っていたと言わなければならない。イデオロギーよりもお金よりも何よりも人が大事なのだと言葉にしていかなければならない。

山本直樹はそれが日本国憲法だと言っている。

日本国憲法の説明として明快で、こういう明快さを打ち出せるのは漫画家らしいなと思ったんであった。

「人権」というと「なんかむずかしい」とか「左翼っぽい」とか「あんまり言いすぎるとややこしくなるよね。堅苦しくなるよね。」とか言う人も最近多いようですが、「言葉やお金や国より、人のほうが大事だよね」という普通のことだと思うんだけど。p113

この本はエロからスタートし、エロを解体していくことで、他者とは、人間とはを説いている。もちろんそれは山本直樹の思う、という枕詞がつくのだけれど、なかなかエロを解体している人やその延長で他者や人間のことを語っている人は少ない。

それはエロというコンテンツが受け手にとって都合の良いものであるからだろう。

そこに描かれている人間を道具化していけばいくほど、受け手は楽にそれを消費できる。エロと消費はセパレートすることが難しい。

だからこそ、エロを楽しみながらも真面目に考え、自分の消費しているものは何かを考え続けていかなければならない。エロ楽しむなら本気でやれ、手を抜くなということなのだ。

そして、人間は反復不可能だし、再生不可能なんです。

~略~

今この本を読んでいるあなたを作ることもできない。p137

@amy
悲しみを埋めるには 幸せの予感