岡本喜八の『日本のいちばん長い日(1967年)』を見た。
NHK BSでアメリカ本国でのアカデミー賞中継が終わったあとで、そういや見たことなかったなあと思って録画したのだった。
日本が無条件降伏し、第2次世界大戦が終結した昭和20年8月15日。昭和天皇による玉音放送が終了する直前まで政治の舞台裏が揺れ続けた、激動の24時間を描いた名作。
昭和20年7月26日、諸外国から日本に対して第2次世界大戦の無条件降伏を迫るポツダム宣言が発せられるが、日本では、あくまで本土決戦を主張する陸軍と、国体護持を条件とする無条件降伏に傾く内閣との間で意見が分かれて紛糾する。そんな折、米軍によって広島と長崎に原爆が投下され、8月14日、ついに天皇の一声で宣言の受諾が決定するが、同日夜、それを不服とした将校たちは皇居を占拠するという反乱を起こして……。
※WOWOW公式サイトより抜粋
映画としての迫力がすごい。おもしろい、というより圧倒された。
この映画は1967年の作品だから、俳優の中には実際に第二次世界大戦を経験したり、兵士として従軍した人もいる。リアリティを出すのに実体験が絶対必要とは思わないけど、命のやりとりをしてきた人の切実さや切迫感は、やっぱり経験の有無で違ってくる気がする。
会議のシーンが多くて大きな動きはないのに、それぞれの気迫がすごくて、画面から目が離せない。
いや……なんというか、うん……。戦争って始めるのはあっという間なのに、終わらせるのは本当に難しい。しかも、"終わらせまい"とする人たちがいる。
戦争を続けても国民が苦しむだけだと考えて終結を望む人と、まだ戦争を続けようとする人が対立し、後者が玉音放送を止めようとする。でも、そのやり方は単なる“妨害”なんて言葉では済まないものだ。
今まで「天皇陛下万歳」で戦争をしてきた人間が、その天皇陛下が「もう終わりにしましょう」という意思を見せると、自分たちの"戦争を終わらせまい"とする主張を通すために天皇に害をなそうとする。
本来は天皇を警護するはずの近衛師団が、"戦争を終わらせまい"と反乱を起こし、皇居を占拠したばかりか天皇に銃を向ける。
もう、このへんが完全にストーカーなんだよね。やってることが。妄執的というか。戦争を続けたい人たちは口々に「陛下はひ弱な閣僚たちに惑わされているのだ!」と言う。まるで「君は騙されている! 本当は自分と結ばれる運命なんだ!」と迫るストーカーのように。
そして、最終的には「自分の理想通りにならないなら殺してやる!」と天皇に銃を向ける。
自分が信仰していた対象が、自分の意に沿わないことを言い出すと、それを矯正しようとし、時には危害を加えようとする。芸能人に恋愛が発覚したときに非難するファンにも、同じものを感じる。
村山由佳先生の『PRIZE―プライズ―』でも思ったことだけれど、そこには信仰に呑まれてしまった人がいた。戦争を続けることや"大日本帝国"という存在そのものに、呑み込まれてしまっていた。
"戦争を終わらせまい"とする人たちの目が異様にギラギラしていて、戦争という人の命を大量に奪う行為は、正気を失わないとできないものなのだと思った。
熱に浮かされ、国家から「命を捨てることが美しく気高い」と吹き込まれ、自分の意思を殺さないとできないものなのだと。
戦争は異様で異常なものだけど、国家は巧妙に国民を巻き込んで戦争の共犯にしてしまう。
自分の誇りや矜持は、本当に自分のものなのか。それとも、誰かに植え付けられたものなのか。
誰かにとって都合のいい操り人形になっていないか、自分で考え続けることが大切だと思う。
社会の流れにただ身を任せるのではなく、ときには苦しさやしんどさにも向き合い、それがどこから来るのか、自分は何に辛さを感じているのかを考える。
自分自身と向き合いながら、自我というものを育てていく必要があると強く感じた。
この映画は戦争に陶酔する兵士や国民の不気味さを感じるという点では見られてよかった。間違いなく私のオールタイムベストになる。
いま配信で見られるのはAmazonプライムのレンタルなのだけど、数百円出しても見る価値は絶対にあるので興味がある人はぜひ見てほしい