年末年始は近場のホテルでホカンス(観光ではなく、ホテルに滞在しながらその設備やサービスを楽しむことを目的にしている)していたのだが、夜に時間があったので、ホテルのデカテレビにYouTubeを映して、こたけ正義感の『弁論』を見た。
評判はSNSで見聞きしていたので、年始一発目の動画にしようと取っておいたのだった。
1時間ちょっともある動画なのだけど、おもしろかったねえ……。
うまい。上手いではなく、巧いのほう。
トークの前半で散らしたものを全部回収していたし、それ導入のトークじゃなくてすでにネタのところなんだ!?と驚かされた。
私はYouTubeをあんまり見ない。
目的のチャンネルをすでに登録しており、それが更新されたら見るので、だいたい滞在時間は15~20分程度。
それを年始早々大幅に引き伸ばしたのが、このこたけ正義感の『弁論』である。
こたけ氏(この区切りであってる?)の『弁論』は去年も配信されていた。それも見たから覚えているが、あのときは冤罪が認められた「袴田事件」がテーマで今回のテーマは「生活保護」。
つまり貧困と生きる權利の話だ。
1. 「法律」×「お笑い」の独自性
単なるあるあるネタではなく、実際の法律知識(チケット不正転売禁止法や憲法、民法など)をエンターテインメントとして昇華させている点が最大の見どころであることは確実だろう。
チケット転売のくだりは自身のライブチケットが転売されている事実を逆手に取り、観客を「人狼ゲーム」のような状況に巻き込むスリルと笑いのバランスが絶妙で、一気にライブ会場のボルテージを上げていたし、ライブの世界へと引き込んでいた。
「指切りげんまん」の法的解釈では子供との日常会話に「公序良俗違反」や「契約自由の原則」を持ち込む滑稽さは、こたけさんにしかできないネタだと思う。
2. 社会問題への鋭い切り込み
笑いのなかに、生活保護や貧困問題といった重いテーマを真正面から組み込んでいる点が、私を含めた多くの視聴者の心に刺さってる様子が見られる。
「いのちのとりで裁判」と最高裁勝訴の流れにおいて、生活保護費引き下げの違憲性を問う裁判の話は、もはやお笑いと同時にドキュメンタリーを見ているような熱量がこちらまで届いてきた。
コピペ判決の発見についてはこの動画のなかで一番衝撃的だったのだが、裁判官の誤字からコピペが発覚するというエピソードだ。
発見されるまでのところも”(判決文を打ち直すなんて)そんなことある!?”だったし、判決文がコピペされていたということ自体も”そんなことある(仕事せえや)!?”であった。
この”そんなことある!?”が同時に起こったからこそコピペが発覚したのだと思うが、それにしても衝撃的である。
これを大学生がAIで卒論を作成しているという小ネタに引っ掛けてるのもおもしろかった。
おいおい、裁判官が判決文コピペしてんじゃねえよ、大学生の卒論じゃないんだからといった具合に。
3. 「京都人」としてのアイデンティティと毒
自身のルーツである京都をテーマにしたトークも、ソリッドな観察があってこそ生み出されたもので聞いていて痛快ですらあった。
京都人の「建前」と「本音」がある。ピアノの騒音や帰宅を促す「ぶぶ漬け」のエピソードを裁判や弁護士の仕事に絡めて語る部分は、毒がありつつも知的なユーモア富んでいる。ウィットな笑いってこういうことだ。
「2代目京都人」の葛藤については3代続かないと「京都人」と名乗れないという独自のヒエラルキーを「JSB(J Soul Brothers)と同じシステム」と例える表現も秀逸で、たしかに3代目って名乗ってるしなと笑ってしまった。
4. 全体を通したメッセージ『だまってへんで これからも』
終、勝訴確定の画像が会場のモニターに大きく映し出される。
『だまってへんで これからも』という言葉に象徴されるように、このライブは単に笑わせるだけでなく、「自分の権利を自覚し、不当なことには声を上げよう」という強いメッセージが込められてたことは明白だ。
また生活保護受給者への眼差しに偏見や差別的なものが混じっていないかを見ている側に突きつける。
見ている側はぎくりとする。こたけ氏は”ぎくり”とさせるためにやっている。
そこから続く「権利と義務は一体ではない。どんな人でも、ただ生きているだけで権利がある」という主張は、現代社会に対する力強いエールでもあるし、同時に權利を行使したければ義務を果たせというのはアホだと誤った認識をばっさりと切り捨てている。
彼がここに至るまで法律的な用語や知識を散らしてきた点が、終盤で一気にガチャン!ガチャン!と音が聞こえてきそうなほど勢いよくつながれていく内容は清々しかったし、相当練りに練り上げたものだと思う。
全体を通してとてもおもしろく、またこのライブでこのネタでやる意義も理解できたし、率直にいってお見事だなあ、あっぱれだなと思った。
が!しかし、個人的に、本当に重箱の隅をつつくようなことかもしれないが、少しだけ違和感や葛藤を抱いた部分もある。
◎ 「お笑いというパッケージ」
彼の言っていることにはおおむね同意するし、お笑い芸人かつ弁護士である彼だからこそできることだ。
忌避されがちな社会問題をお笑いというパッケージにすることで、そのメッセージが受け取られやすくなっただろうし、社会運動や”政治的”なメッセージを嫌う人にも届くようになっただろう。
それは素直にすごいことだと思うし、人権は侵害されるべきではなく、差別や偏見がない社会になってほしいと願う自分にとっては、こういうメッセージの届け方は大いに参考にするべきなのだと思う。
そう思うのだ。思うのだが!こういうパッケージにしないと、ここまでしないと伝わらないのだろうか?
こういうお笑いと掛け合わせないと聞いてもらえないのか、聞く耳を持ってもらえないのかと虚しさも覚えた。
しかしながら、エンタメは機能として「翻訳」を有していることもまた事実である。
エンタメ作品を見て、勇気をもらうとか、何かを始めるきっかけにする。
作品から受け取ったものを実生活で昇華するという例は私にもあるし、当然色んな人にもあると思う。
本来、人権や生活保護の話は「そのまま」で重要であり、重く受け止められるべきものだ。しかし現実には多くの人が日常の忙しさや忌避感から、重いテーマに心のシャッターを下ろしてしまうことはある。
みんな自分のことでいっぱいいっぱいで忙しく、余裕がない。
そんな状況のなかでこたけ氏のパフォーマンスは、そのシャッターを「笑い」という鍵で開けて、中身を滑り込ませる作業とも言えるのではないか。
それは社会の不条理に対する「敗北」ではなく、「どうにかしてこの壁を突破したい」という、伝え手の執念とも捉えられるのではないか。
彼なりの「聞く耳」を作る工夫と言えるだろう。
「笑いにしないと伝わらない」という現実に虚しさを覚えつつ、それでも「笑いにしてでも伝える」という彼の姿勢を肯定することは、私のなかでは矛盾しない。
むしろその虚しさを自覚しているからこそ、このライブから「手法」だけでなく、その根底にある「切実さ」を受け取ることができたのだと感じている。
◎「社会人」の定義に対する指摘
またもうひとつ指摘させてもらうなら、こたけ氏のライブ中に使う”社会人”という言葉についてだ。
動画内で数度ほど出てきたと記憶しているが、文脈から判断するに、きっと彼は働いている人、もしくは働いた経験がある人のことを指しているのだと思う。
しかしながら、私としてはすべての人間は個人として社会を構成しているわけなのだから、社会人の定義が働いている、つまり労働者(もしくは労働経験者)というのは不正確ではないのかと思った。
文脈によるが、労働者や労働を経験したことがある人のことを指して”社会人”と言いたいのであれば、そのまま労働者とか労働経験者とかでもいいのではないか。
おそらく、こたけ氏が「社会人」という言葉を「労働者(労働経験者)」のニュアンスで使ったとしたら、それはただ世俗的な慣用句に則ったものかもしれない。
しかし「働いているかどうか」を社会人の条件にしてしまうと、それは彼自身が批判した生活保護受給者や貧困層への偏見や差別とかなりニアリーである「生産性で人を測る視点」に無意識に陥るリスクを孕んでいると思うのだ。
子供や高齢者、病気で働けない人、そして生活保護受給者をも含めた「すべての個人」を社会の構成員として対等に眼差すための言葉を考えてみてほしい。
■ 感想まとめ
アフタートークで某芸人さんの素人は黙っとれしぐさを批判していたのもだいぶ好きです。
弁護士としての知見を「笑い」に変え、本来届かない層へ人権や生活保護のメッセージを届けた手法は評価されるべきだし、芸人かつ弁護士である彼だからこそ到達できた表現の形である。称賛とリスペクトに値する。
差別や偏見のない社会を願う一人として、この「届け方」に強い感銘を受けるし、自分自身の発信や他者との向き合い方の参考にしたい。
人間にはどうしたって感情があるのだから、その感情含めて、自分が届けたいことをどんな手つきで扱うかは考える必要があるだろう。
同時にエンタメというパッケージにしなければ「聞く耳」を持ってもらえない現代社会の現状には一抹の寂しさと虚しさがどうしても芽生える。お笑いと掛け合わせなければ届かないというハードルの高さには正直戸惑ってしまうが、それでもこたけ氏のこの動画やエンタメをフックにしてやっていくしかないのかもしれない。
すべての個人が社会の構成員である。ライブで語られた「社会人」という言葉の定義について、今後こたけ氏にはより包摂的な表現を用いることで、彼のメッセージはより強固なものになるのではないかという期待を込めて、感想のまとめとする。
【1月18日まで!!!!!!!】こたけ正義感『弁論』
絶対に見てくれよな!!!!!!!
これを機にこたけさんのラジオ聴き始めました