首から便器を下げた人

anatomiya
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 先々週くらいに飲み屋で飲んでいて台湾etcから来た集団と仲良くなり、彼らはそのまま横尾忠則の「寒山百得」展に行くというので着いていった。どんな内容なのか聞いたら、昔、中国に住んでいた有名な禅のお坊さんがの2人組がいて、そいつらは超冴えていて、誰もが目指す禅のお坊さんたちのゴール的存在だったらしいんだけど、その地方の県知事みたいな人がその話を聞きつけて「セレブと写真が撮りたい」的なノリでその寺に向かったら、庭にホウキでチリを掃いてる汚いやつが一人いたからとりあえず「寒山と拾得という者に会いに来たんだけど、案内してもらえますか」と頼んだところ、えへへ…とかいうだけでらちがあかなくて、しょうがないから奥に行くと、飯炊き場で火の前に座って残飯漁ってる奴がいて、やっぱ何を聞いてもニヤニヤしているだけでらちが開かず、「この寺バカしかおらんやん。都市伝説か…」と思って帰ってしまう。けどその2人が実は寒山と拾得だったのでした〜!という禅を極めるとバカにしか見えないというありがたい説話が中国にあって、天才バカボンに出てくるレレレのおじさんもこの拾得がモデルになっている(だからホウキを持っている)し、その寒山と拾得の2人組を描いた禅画は国宝とかなんだけど、このたび横尾忠則がこの 2人組をひたすら102枚描いた、そんな展示会なのだという。

 それで上野まで行って中に入ると、1枚目とかもうぐっちゃぐっちゃで台湾etc人たちは、さっそく「おお〜」とか「わかる〜」とか言っている。「この手前の馬と人はワンヒット、けど奥の人はスリーヒット。何が起きたかあとから教えてもらうとして今はグッドラック」などと言って盛り上がっていた。私は話がよくわからないので、近づいたり遠ざかったりして見ていたけれど、カラフルな波動みたいなものがのたくっていて、形はあるんだかないんだか定かではないけど、まあなんかギリギリ存在してるし笑顔みたいな、楽しそうで良かったねみたいな。色がきれいで、筆致から自由さを感じる、遊んでる感じがいいな〜と思って見ていた。

カラフル波動体になってる寒山拾得

 今回の展示はモチーフは一緒で102人組み手!みたいな感じになってるから、部屋ごとにテーマが変わっていって、なんか急に目がカワイイシリーズとかになったりして、一貫してるのは拾得がホウキの代わりに掃除機を持っていて、寒山はお経の代わりにトイレットペーパー持っているというところのようだった。モダンな寒山拾得、しゃれている。

カワイイ寒山拾得

 キュビズムっぽいタッチのコーナーがあり、そこでは脚が描かれず代わりに敷物の中に脚が伸びている絵があった。その前で「脚が模様になっちゃった〜!」とかいってサンフランシスコのやつがふざけ始めて「キノコでこうなったことある」とまた訳のわからないことを言いだした。そのうち一人が私は以前、右手が毛糸になってしまい、どんどんほどけていくので焦って箸で止めようとしたんだけど、手元にないからサブウェイにのってチャイナレストランまで向かおうとしたという話をはじめた。ところが、途中でドアに引っかかったり人に踏まれてたりして、毛糸は余計にほどけていき、レストランに着く頃には身体が5分の3くらいになってて焦りながら「身体が解けちゃうから箸を頂戴!」と頼んだら店員が割り箸をくれた。さっそく自分で自分を編み直すとだんだん身体が元に戻っていくが、どうしても毛糸が足りないことが判明して、おへその部分だけ穴になって残ってしまい「こんなことならもっとかかとの先とか、どうでもいいところを最後に編めばよかった!」と泣き出したところ、同情したレストランの店員が春巻きをくれたのだという。泣きながら齧ったら、中から春雨が出てきて、それを毛糸の代わりにして編んだらおへその穴も埋まっていったらしく、だから今でも春巻きを食べると身体が修復されていく感じがする、今日もこのあと食べに行こうと思う、という話をしてくれた。かなり意味がわからなかったけど、私はよかったねと言った。海外では色々なことがあるみたい。

 展示会にはなぜか安倍晋三と森喜朗も登場しており、中原昌也っぽいタッチだなと思った。

横尾忠則が描いた安倍晋三と森喜朗

 展示の後半には身体が山水画タッチの山になってる2人の絵があって、むかし杉作J太郎がラジオで、「チンポのでかい人や!」と褒めるうちに「ほんとにでかい!デカすぎて気づいたら家からここまでずっとあなたのチンポの上を歩いて来たくらいデカい!!」とかなりスケールアップしていたことを思い出していた。するとサンフランシスコのやつが、昔高尾山で珍しい野菜の天ぷらを提供する会があり、天狗のうちわのような形のその天ぷらをしこたま食った帰り道、中央線に乗っていてふと気づいたら、自分が中央線になって走っていたという話を始めた。天狗のまじないかと思ったが、あれは一種の禅の境地に達していたのかもしれない。だからこの絵はノンフィクションだと思うという。なんだかこいつら、ワケは分からないながら色々思い出があっていいなと私はだんだん羨ましくなってきた。

身体が山になっちゃってる寒山拾得

 最後に、出口の手前に飾ってある1枚は黄金に輝く背景の中、赤い波線だけで描かれた二人で、そのうち一人はトイレットペーパーを持って踊っている。どんだけバカを描けるかの競走を102枚(数え間違いじゃなければ全部で101枚しかなかったけど)見た後で、最後に踊ってる人が出てきてやっぱ間違いねー!みたいな興奮があったけれど、そのとき私はついに自分にも台湾etc人たちに話せる小話があったのを思い出した。それは昔エレクトラグライドというレイブが幕張メッセであった時のことで、私の友達から聞いた話なのだが、その友達の友達が世界各地の色々な酒と様々な方法で合体し過ぎた結果、完全にできあがってしまいトイレに消えていったのだという。その後、いつまでたっても帰ってこないのでみんなが心配しはじめたころ、やっと戻ってきたと思ったら、首から便座を下げていたらしいのだ!そうしてそのまま踊っていたらしい。その話を台湾人ほかにすると「おお〜〜!!!」「ナイス!!!!」「That's 寒山!」と感動し始め、私も小話ができてやっと面目を施せたしあわせに浸っていた。RAVEのバカに感謝!

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