絵に描かれているのは、ピアノに向かう二人の女性の姿。白いドレスを着た姉のイヴォンヌは鍵盤に指を置き、赤いドレスの妹クリスティーヌが楽譜をめくる。画家ルノワールのこの作品には、若かりし頃の彼女たちの輝きと幸福が閉じ込められている。
ドミニク・ボナ著、永田千奈訳『印象派のミューズ ルロル姉妹と芸術家たちの光と影』は、絵の主役である姉妹とその周辺の人たちの生きざまを描き出した評伝である。多様な人物が、19世紀から20世紀へと移り変わる時代の波にもまれながら生きる様子がよく伝わってくる。
平穏と調和を絵に描いたかのような少女時代を過ごした姉妹だったが、結婚後は彼女たちの人生に暗い影が落ちる。同じ人物に相手との仲を取り持たれ、同じ兄弟に嫁いだ二人。だが二人とも夫には愛されなかった。イヴォンヌの夫ウジェーヌは自分が輝ける居場所を見いだせずに苦しんでいたし、クリスティーヌの夫ルイは毒舌家で怒りっぽかった。そして二人とも妻以外の誰かと関係を持っていた(ウジェーヌの場合、それも彼を苛む矛盾となった)。
スポットが当たるのは姉妹とその夫たちだけではない。彼女らの父であるアンリ、アンリと親しかった種々の芸術家たちも多く登場する。カタカナの名前に弱いと読むのが辛くなりそうだ。だが、その中の誰もが活写されているところは一読に値する。
まるで、良質なドラマを登場人物に感情移入しながら観終えたかのような読後感が残った。時代が進んで本の中の彼女らが一人また一人とこの世を去っていく段になると、一抹の寂しさすら覚えた。
現在、姉妹の絵はオランジュリー美術館に収蔵されているとのこと。いつかそこを訪れて絵の前に立ったら、どんな感慨が生まれることだろうか。