晴れの日のスカーンと抜ける、快活な気持ちよさはもちろん好き。けれど雨の日の静けさも同じくらい好き。多くの人にとって雨は気分が下がる存在であるために、晴れの日には人で溢れかえる街も、雨のおかげで少し音量が下がる気がする。服も靴も濡れる日にあえて外出するのが楽しい。喫茶店の窓から雨を眺めたり、ラジオを聞きながら少し散歩したり。長靴は持っていないから足元はびちょびちょに濡れるのだが、雨の日だからこそ浮かんでくる思考との出会いも多いゆえ、雨が降る朝に予定がないと心が躍る。
モネ展に行った日も朝から雨だった。けれど美術館に行くには雨が絶好の天気模様だと思う。展示前に歩き回って体力を消耗するのを避けるため、この日はカフェで待ち合わせをした。大きなガラス窓の向こうに傘を刺し行き交う人々を眺め、冷えた両手でカップを包みながら、2人でコーヒーを飲む。心赴くままに、そして時々熱く話ができる時間がとっても豊かだった。
展示の中で一番心惹かれた作品も、なぜだか雨がモチーフだった。晴れの日に描かれた作品の方が圧倒的に多いために目に留まったのか、それともただ自分が雨好きだからなのか。『雨のベリール』でモネが描き上げた雨の「静」の表現とその色使い。静かだけれど、完全な静寂ではない。その「静」を作り出す、擦れ合う草木や雨つぶの織りなす、かすかな音たちが聞こえてくるような大胆な筆致が忘れられない。