
2026年3月5日(木)
噛まずとも引っ掻かずとも声色でわかる怒気。猫を宥める。
2026年3月7日(土)
坂の上の病院へ同居人と母とともに父を見舞う。自宅での晩酌はまたの機会とする。
アーケード街の裏通りには目新しい店が増えていた。以前の帰省でも会った猫に挨拶をする。
2026年3月8日(日)
山は野焼きに燃えていて、高く登ることは叶わず、しかし中腹であれど眼下に広がる峰々は悠と雄々しい。緑は遠ざかるほど蒼く見える。
博物館を観て回り、カフェで一服したらバスで帰路に。物心着く頃から慣れた道を今は同居人とたどる。
2026年3月9日(月)

太陽を飲み込んだような八朔のマーマレードが苦くて甘い。整列する岩々は振られた番号のとおりにまた石垣となるのを静かに待っている。城の影を通り過ぎる風が冷たかった。
2026年3月13日(金)
クロモジ茶は木の味。
2026年3月18日(水)
マカロンより濃い赤の爪。
2026年3月19日(木)
痺れる頭を撫でるようにしてあの子がまた夢に出てくれた。水浴びに笑う頬。
2026年3月20日(金)
手書きから伝わるものが確かにあって握り締めるのもまた手。相澤いくえ『モディリアーニにお願い』を読んでいる。
2026年3月25日(水)
隣家の屋根を歩くムクドリに猫たちが興味を示す。人間は低気圧にうなだれている。
2026年3月26日(木)
思い出してくれてありがとう。どうということのない言葉の一つひとつが夢みたいに大事だと、最期まで私だけが知る。
2026年3月27日(金)
スピッツのバニーガールを歌いながらの朝。雨が降るまでに乾いてほしい。
2026年3月28日(土)
息が詰まる今を、空が落ちる時を、分かちあえたらうれしい。2機の飛行機が青を割る。
2026年3月29日(日)
和山やま『ファミレス行こ。』を読む。あなたの本には力があるからと言われ、そうであればと思う。
2026年3月30日(月)
高架下に落穂拾いが飾られている。いなくなるなら目も開けられない春がいい。指先をグレープフルーツ色にした。
2026年3月31日(火)
日記を書く。キム・ジニョン『朝のピアノ』を読んだ。