久しぶりにうっかり声を出して笑ってしまう映画を観た。
綾野剛主演カラオケ行こ!、めっちゃおもしろかった。
わたしは綾野剛がちょっと苦手で、カラオケ行こ!も選択肢からはずれていた。フライヤーのビジュアルを見てもあまりそそられなかったのもある。でもTwitterでベタ褒めのつぶやきをみたので、軽い気持ちで観に行った。コメディぽいし、昨今の気分の湿り気を飛ばしてくれるかもなって。
結論観てよかった。そして綾野剛を見直した(偉そう)なにあれ…ダブルピース狂児最高じゃん…それに加藤雅也出てるなら言ってよ…
期待していなかったので二本立てにしていた。カラオケ行こ!と市子という方向性が真逆な二本立て。どうなのそれ…と思いつつも、先攻カラオケ後攻市子で観た。案の定、なんとも言えない気持ちで帰ってきたので翌日カラオケを観直すことにした。市子は市子ですごかったし観てよかったけど、カラオケと一緒にしてはいけなかった。天国と地獄。どちらの良さも相殺させてしまった。
翌日は極音上映で観直した。ヤクザのカラオケを極音で聴くってどうかしてんな、って思いながらも席を押さえた。でもヤクザのカラオケだけじゃなく中学生の合唱パートもあったので、開始早々鳥肌が立った。極音でかけてくれてありがとうシネマシティ。ハナから極音で観ればよか以下略
中学生とヤクザが仲良くなるという設定で思い出したことがある。
わたしが聡実くんくらいの頃は、バンドブームも手伝って色々と遊び呆けてた。会場前にはダフ屋さんがめちゃくちゃいた。会場へ向かう道すがら、はいはいチケットあるよ〜余ってたら買うよ〜アリーナあるよ〜姉ちゃんシカトすんなや〜と濁声で話しかけてくる、いかつい柄シャツたちを無視して会場に到着するのがデフォルトだった。
でもいつだったか、一人のダフ屋さんと仲良くなった。スーツだったけど柄シャツも着てなくて、いつものチケットあるよ〜という話しかけかたでもなく、ねえ、このバンド人気あるの?なにがいいの?といった感じだった。それにちょっと面食らって、つい話に応じた。バンドの良さをわかって欲しかったのもある。
どこの席?えっ結構後ろじゃん、俺もうちょっと前の席持ってるよ、ほら。500円で交換したげるよ。いいよいいよ500円で、俺わかんないから。
中学生にとって、500円は帰りに食べる屋台の焼きそば代だった。焼きそば食べたいからいい、と言ったら笑って、じゃあいいよ、タダで交換したげるよ。って言ってきた。大好きなんでしょ?どうせならいい席で見なよ、俺まだ良さがわかんないから、と。半ば強引にチケットを交換させられた。
そしてその後、またいい席あったら教えてあげるから、と電話番号を交換することになった(しかも家電)。何度か取れなかったチケットを譲ってくれたりした。それも上乗せすることもなく、しても500円程度だった気がする。電車賃だけ出してくれればいいと。
仲良くなっていったら、ねえたまには手伝ってよ、と人気の野球やライブチケットをとるバイトをさせられた。当時は先着順で且つ抽選だったので、早朝からチケットカウンターに並んで取ってもどこの席が来るかわからなかった。ダフ屋さんにしてみれば、金になるいい席が欲しかったはずなんだけど、わたしが取れた席はめっちゃカスで、うわ〜君はくじ運最悪だな〜〜、よりにもよってここか〜〜〜って笑われた。そんなカスチケットでも朝から並んでくれたからと缶ジュースと1000円くらいくれた。マックに一緒に行って奢ってもらったこともある。もらったお金はまたチケット代に流れていくので、結局のところバイトではなくプラマイゼロだった。金銭面ではどちらにもプラスはなかった、と思う。わかんないけど。
家電の番号も悪用されることもなく、バイトをしこたまさせられることもなく、好きなバンドのスケジュールが公開されるとチケット取れた?どこ?じゃあそれより前列が手に入ったらまた連絡するわ、と連絡が来て、取れた時はめちゃくちゃ薄利で譲ってくれた。取れない時は連絡がなかった。だから、いやあいいお兄さんだなあ…くらいにしか思っていなかった。親も普通に電話取り次いでくれてたから、ブラック企業の人とは思ってなかったと思う。そのうちわたしのバンドブームも去り、世の中のダフ屋撲滅運動とかもあり、関係性はいつの間にか立ち消えた。
聡実くんと狂児さんをみて、そんなことを思い出した。
聡実くんも意図せずにブラック企業と知り合い、仲を深めていく。どちらかというと聡実くんより狂児さんの方がグイグイいってた関係性なのでわたしとはちょっと違う。聡実くんの方が全然健全だしあれはそもそもフィクションだけど、事実は小説より奇なりというか、わたしのあの関係性はフィクションみたいなノンフィクションだったなって思った。
映画の中で、親父のポカで狂う児と漢字を変えられた彼が、聡実くんは賢い実(朧げ)だから大丈夫、というような名前に言及するシーンがあった。わたしにとっての狂児さんの名前は確か、誠さんだった。
ブラック企業なのにまことだったな、とちょっとおかしくなった。でも、まことさんはわたしにはとても誠実ないいお兄さんだった。
まことさんはわたしが好きなバンドの良さはわかってくれなかった。それに足繁く通う気持ちもわからない、って言われてた。今はもういいお年だと思う。どうしてるかなんてぜんぜんわかんないしずっと忘れてたけど、狂児さんみたいに飄々と生きてたらいいな。