5000人の民間人が兵器によって殺されて。ぼくが生きている理由がわからない。
どちらがより悪く、どちらがより正しいのかわからない。
頭部を失った子供の躯に比べれば、そんなものどっちでもいい。
何も出来ないぼくが、夜ごはんを食べて、小説を書いている理由がわからない。
今、電気もガスも水道も止められた病院があって、24時間以内にまた死者が増える。生きていたかったはずの。
それが何故なのかわからない。
こどもの頃から思っていた。
ばかばかしいし、悲しくなるからもうやめようぜ。見て見ぬ振りもやめようぜ。
何故そう言えないのかわからない。
テレビをつければ、空爆のニュースの後に、芸能人が珍しいレストランでうまそうなものを食べてる番組が放映されてて、ゲストのみなさんが笑っている。
ぼくは自分が、テレビに映らないだけの最も卑怯なゲストであるような気がする。
じぶんがとても、不公平で悪いことをしているような気がする。
1という数字が発狂しかけている。5000人のぼくが死ぬわけじゃない。5000人の見知らぬひとが死ぬ。ぼくのなかの、かけがえのない命が5000回死ぬことよりも、さらに巨大な無数の中でひとが死ぬ。
もう死を数えてはいけない。そこには名前がない。名前を呼ばなければならない。心を込めて。
それは尊厳を付与し、取り戻す小さな個々の呪文だ。
ぼくは麦原アリノス。お名前を教えてください。