2024年9月6日(やり返さなかったマーティ)

しずかな麦原アリノス
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公開:2024/9/7

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が大好きで、ほぼ完ぺきな映画として何度も観てるんだけど、歳を経るにつれて一つだけ好きじゃないシークエンスがあることに気づいた。もしくは、このシークエンスを嫌うように私の感性が変わってきた。

マーティの奮闘とジョージの勇気で変わった未来の中で、ジョージがビフに車を磨かせているシーンがそれだ。詳しい背景は語られていないが、かつて自分をいじめていた男を雇い、こき使ってやろうという発想は、まともな人間の抱くものとは思えない。

ここでは強者と敗者の逆転が起こっているが、果たして成功とは強者の立場を得ることなのだろうか。結局のところ、ジョージとビフの立場が入れ替わっただけであり、強者が弱者を卑しめているという事態は何も変わっていない。

完成度であれば『1』だろうが、結末としては『3』が好きだ。『3』ではマーティが『戦わない強さ』を身につけ、最悪の未来を回避している。マーティがそういう強さを選んだのもカッコよかったし、それによって良い未来を得られたところもよかった。あの決断によって、マーティはもう誰にもやり返さなくていいのだ。