妹家族が帰る日がやって来た。帰る前に祖母の家に行く事になり、私も同行する事にした。その時テレビでやっていたのが
「80代以上が選ぶイケメンランキング」
確かこんな内容だったと思う。
祖母はイケメンが大好きだ。ランキングの前に昔の役者さんが色々出てきたのだが、祖母のテンションはとても上がっていた。
「あの人もハンサムだったわ~」
と、聞いた事の無い役者さんの名前を言っていたのだが、その人は確か5位位だっただろうか? 出てきた時とてもニコニコしていた。
ちなみに姪は草刈正雄と岡田真澄にときめいていた。
次の日は朝早い事もあり、20時頃に家に帰る事に。
祖母も調子が良くて玄関まで迎えに来てくれた。
玄関の階段を下りてふと、玄関の方を見ると、祖母が姪と甥とがっしりと握手をしているのが目に入った。それを見て私は何故か泣きそうになってしまった。会う事が出来て良かったという安心感と、恐らく、最期になるかもしれないと予感があったのかもしれない。握手をしている祖母の笑顔を忘れてはならないと強く思っていた。
その後、お盆がやって来た。私はお盆は基本的に祖母の家で過ごす事にしている。祖母はやたら咳き込み、全身が痛いと言ってシップを貼ってほしいと頼まれた。言われた通りにシップを貼ったのだが、全身からのシップの香りがものすごい事になってしまっていて、祖母と二人で笑っていた。その時黒いズボンを買ってほしいとおねだりされて、買う約束をしたのだが、それは叶う事ができず、私のスマホのやる事リストの中に残っている。
祖母の地域ではお祭りや花火大会があり、祖母はお祭りが大好きだった。しかし、ここ数年は歩くのが難しいのもあって行けず、祖母の大好きな綿あめを買って渡すと喜んでくれた。
その後、ぺろりと完食したらしい。
帰り、祖母が私に向かってこう言った。
「あるちゃん、また遊びに来てね」
私は「もちろん! 9月は連休多いからその時来るね」と、手を握って答えた。祖母の介護をしている伯母を少しでも休ませてあげたいと思っていたのもあったのと、伯母自身、手術の予定でばたばたしていたのだ。
これが自宅で会う最期の会話になるとは思ってもいなかった。
8月末だっただろうか、祖母が肺炎で入院した。最初は近くのクリニックで点滴をしていたのだが、どうも良くならず、大きいところの方が良いと診断されたのだ。
そこは面会は可能ではあるが予約制である事と、土日は面会がやっていないという事、そして車じゃないと行けないという事で私は面会に行く事ができなかった。
ある日、実家に帰ると母から「ばあちゃんあと半年位だって。転院して緩和病棟になると」と、聞かされる。
衝撃ではあったが、前の余命一か月といきなり言われた時よりは何といえばいいか、まだ混乱はしなかった。ただ、緩和病棟の単語の方が私は気になった。
「え、癌なの?」
「肺がんだって」
祖母が癌。まあ昔ヘビースモーカーだったから肺がんはありえるのだが、ちょっと想定外だった。一族は癌家系ではあるが、勝手に癌とは無縁の人だと思い込んでいた。
ちょうどこの時、父も余命宣告をされており、普段そこまで落ち込むことが無い母が流石にまいっているように思えた。
しかし、母の次の言葉で吹きそうになる
「10月のディズニーどうしよ」
そう、前回私がイベントどうしようと思っていたのだが、実はその前に母と伯母(祖母とは一緒に暮らしていない方)は旅行を計画していたのだった。延期した先が10月だったのだ。
父は旅行行っておいでと言ってくれたらしく、私に食事だけフォローしてほしいと依頼してきたのでそこは了承するが、伯母の犬(多頭飼い)の面倒も泊まりで見なくてはいけない。さらに私自身、手術の準備で色々と慌ただしかったりした。
幸い実家にいる弟が平日は父の食事を用意する事が出来そうな事と、土日が日程に組み込まれていたのもあったので、まあなんとかなるだろうと頭の中でスケジュールを組む。
その後、祖母が緩和病棟のある病院に転院したが、時間帯は決まっていたが、平日は面会が予約なしで30分までOK。土日も予約すれば可能とありがたい所だった。病院までのアクセスも駅から近く、乗り継げは行ける。私は遠征する以外で初めて「駅近で良かった~!」と、思っていた。
「……やる事が多いな……」
頭の中に金田一少年の事件簿の有森が浮かんで来た。
・父の食事の準備
・伯母2の家に泊まりで犬たちの世話
・祖母のお見舞い
・自分の事
やる事自体はそこまででは無いのだが、移動がちょっと面倒な事に気が付いた。車を持っていないのだ。
実家→職場→自宅→→→病院
距離的にはこんな感じだが、伯母2の家は職場から別方向になる。バスの路線も伯母2の家だけ合わない。自転車があるので、自転車に乗れば余裕なのだが、雨予報があったのだ。
母と伯母2が旅行・伯母1も入院となると基本私しか動きやすい人間がいない……弟は夜勤だし妹1もシフト制だ。
しかし、ここで助っ人が現れた。
伯父(伯母2の元旦那)である。
離婚はしているが二人の仲は悪くないややこしい関係である。祖母とも仲が良い。
祖母が療養病院に入院する時も動く事がままならない祖母の身体を支えてくれたりしていたのだ。
私はお盆の時に実に十数年ぶりに再会したのだが、それまでも飛行機の手配を頼まれたり私の自宅の事で相談に乗ってくれていたりした。
なんと伯父の勤務先が祖母の病院から徒歩3分程の所にあるという。
「平日は忙しくなければ毎日行けるから!」
伯父は本当に平日ほぼ毎日お見舞いに行っていたらしい。土日は仕事が休みだが、特に急変が無ければ一日位は見舞いに行かなくても問題が無い……というより、祖母が「毎日誰かかしら来て疲れる」と、言っていたので休ませようという事になった。
ありがとうおじさん……!
弟の仕事のスケジュールを確認して、土曜日は父の食事を用意できるとの事だったので、土曜日は仕事→祖母のお見舞い→伯母2の家、日曜は伯母2の家から実家に行って父の食事の用意をするというスケジュールになった。
しかし、ここで予想外の事が起きた。
(なんか歯が痛い)
まさかの歯痛である。土曜はなんとか堪え、日曜実家に帰る前に歯医者に行く事にした。幸い、昼前に予約が取れたので父をあまり待たせなくてすむ。
伯母2からのペットシッター代はみごとに歯の治療代に消えたのだった。