親は昔から私に何も期待しない。
よく働き、よく稼ぎ、よき人間として生きろなんて一度だって言われたことはない。
大学を辞めても、会社を何度辞めても、実家に引きこもっていても、怒りもしなければ責めもしない。
どちらかといえばうじうじするほど嫌がられた。
だた一つ、自分より先に死ぬなとは、親はよく言った。
元気でなくてもいいから、自分よりあとに死ねと。
私は何となくそれを、なんとなくそれだけを一所懸命頑張っている。
親から唯一与えられた希望がそれだけだから。
ただ残念なことに、私が今この瞬間自死を選択する以外、死のタイミングを私は選べないし、それは誰だって同じことだ。
歩いていて頭上に隕石が落ちてくる確率はそれこそ天文学的だったとしても、明日病が見つかるかもしれないし、車が突っ込んでくることは、ありえないわけではない。
でも私はただそれだけの、唯一与えられたそれだけのために、なんとか今日も生きている節があることだけは、自覚的だ。
もしかしたら本当は、いまにも死んでもいいと思っているのかもしれないのに。
でも、今日も、親は生きている。では、私も生きなければ。