確信と疑念

asamitono / 遠野朝海
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公開:2025/3/23

 曲を作らないでいる期間に不安になってしまうのをやめたい。仕事として請け負っているわけでもないのに、なんとなく作りかけの何かがないとそわそわする。作りかけの何かがあったらあったで早く完成させなきゃとせかせかする。もっと腰を据えて勉強したりインプットしたりするべきだと頭では理解しているのだけど、なかなかそううまくはいかない。寡作でライブ主体で活動している方はどういう感覚なのだろう、と時々思う。多分そちらの方がずっと本来的だと思うし、日々豊かに生活して納得のいくものを時間をかけて制作できるのなら多分それが一番良いはず。でも、一人で全部やっているせいもあってかそんな境地にまだ辿り着けない。

 などとぐだぐだ思っていたところ、『教皇選挙』を観に行ってぶん殴られた。コンクラーベの話ではあるけど、現在的だし皮肉もたくさん込められていて良心や正義とは何か、突きつけられる。単純に次の教皇が誰に決まるのか、足を引っ張っているのは誰か、密室サスペンスとしてもとてもとても面白かった。教皇が決まったかどうかを知らせるあの煙は、枢機卿たちの投票用紙を燃やした煙だと初めて知った。わたしは小学生のころ母の意向で教会に通っていたけど今は無宗教で、厄年などジンクスもまったく信じていないし神社やお寺でもお祈りはしない罰当たりな人間なのだけど、こういうしきたりや作法などは面白いなと思う。カルトなどは別として誰がどんな宗教を信じていてもよいと思うし、敬虔さに敬服するし、わたしもなんとなく人知の及ばない大きな何かはある気がしている。

 物語もさることながらVolker Bertelmannの弦楽器主体の楽曲(ドイツの作曲家だった。納得)が暗くて緊迫感があってめちゃくちゃ良かった。多分短調しか流れていなかったと思う。弦をスライドするあの不穏な音色はピアノでは絶対に出せない。でも音楽は合間合間に効果的に流れるだけで、無音部分は主人公の首席枢機卿の息遣いまで聞こえて(はじめ近くに座っているひとの寝息かと思った……)、彼の心情がひりひりと伝わってきて動悸がした。現実に即しているであろう衣装や建物も美しいし色彩のコントラストや構図が素人目にも素晴らしくて突き刺ささった。音も映像も言葉もひたすら研ぎ澄まされていて(オープニングも格好良かった!)、四の五の言わずにとにかく精進しろ、大人になれ、と言われたような気がしました。

 とあるキーマンの言葉も今の世界情勢を映しているようで素晴らしかったけれど、リベラル的、人道的な思考を持つ首席枢機卿の「確信だけあって疑念がなければ信仰は要らない」という説教がとても印象的だった。常に、これでいいんだろうか、わたしは間違っているのではないか、と自問することはきっと信仰に限らず大事なのだろうと思う。創作でも。