今月はミモザ

asanatto
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数か月おきに絵葉書をやりとりする友人がいる。彼女とは、二番目に勤めた職場で出会った。

そこに居たのは、自分の旦那や子どもの学歴でカードバトルする主婦ばかりだった。私は夜間勤務だったので昼勤務の主婦たちとは普段関わりが薄かったのだが、たまに夜番と昼番が混在し、いやでも主婦ズの学歴カードバトルを徒手空拳で迎え撃つ羽目になった。正直だいぶダルかった。私の出身大学を明かせば主婦ズが黙るのは解ったが、最初に勤めた職場でさんざん学歴コンプの人間に皮肉を言われ続けた苦い経験から、それは最後の手段だった。

ある日、昼番の主婦さんと組んでカウンターに入る事になった。今まで一緒に組んだことのない方だったので、やや緊張しながら挨拶し、作業をしている横顔に向かって慎重にジャブを打って行った。

「そろそろお子さんは冬休みですか? ママさんたちは大変ですよね」

彼女は思い切り目を見開き、メガネを外して私をまじまじと見た。そうして「子どもは三人とも、全員とっくに成人しているの。孫も居て、おばあちゃんなの、私」と笑いながら言った。私はたいへんびっくりして、とにかく謝った。コミュニケーションが常に手探りで、毎日他の人がどういう会話をしているかを窺い、それを参考にして次回の会話に取り入れていた。そのツケが来たのだと思った。

「若く見てくれたんだから、謝らなくていいよ」

笑って許してくれて、それからは仕事の合間に自分の好きなことを語り合うようになった。お皿の絵付けを習っていること、美術館めぐりが好きなこと、旅行が好きなこと。彼女の口から学歴カードバトルを聞いたことが無い事に気づいた。好きなことばかり語り合うのはこんなに楽しいのだ。

そのうち彼女が定年で仕事を辞め、住所を教え合って絵葉書を送り合い、それでかれこれ7,8年になるだろうか。上野のエッシャー展のチケットを譲っていただいたり、お互いにどこそこに旅行したと報告したり。季節に合った絵柄のポストカードを選ぶのも楽しい。

引っ越して苗字が戻ったことを伝えたら、まもなく返事が来た。どうやらご主人が亡くなったようで、さらにご自身も長時間の歩行が難しくなったらしい。お互いに人生色々ありますねえと思いながら、ミモザの絵葉書に自分なりに勇気づける文章をしたためて、ポストに投函した。

良い話で終えようとしたけれど、これだけは言わせてほしい。夫や子どもたちの学歴でマウント取ろうとする人へ。それらはお前の手柄じゃない。仲間内で誇っているならいいけれども、誰かれ構わず自慢するのは止めようね。それだったら自身の学歴をひけらかして威張ってる方がすがすがしい。