グーテンベルクの活版印刷以来、紙がメディアとして一強であった時代が長く続いた。ラジオやテレビの時代がやってきても、文字を伝えるメディアという重要な役割を果たし続けた。しかしとうとうインターネットが文字情報を瞬時に伝える強いメディアの地位へ躍り出た。動画サイトが隆盛を極め、そもそも文字をあまり読まない人が多くなった。紙の力は年々弱まりつつある。
紙は不便だ。一度印刷されてしまえば、情報を容易には更新できない。しかしその性質が、紙面へのインクの定着へと至るまでの多くの工程に、慎重さと緊張感をもたらす。結果として、いまでも一番信頼のおける情報は紙に書かれていることが多い。
メディアとしての役割を長い歴史の中で担ってきた紙、それ自体に歴史があり、またそれ自体が歴史を形作るのにつかわれているという多層性。歴史そのものの多層性。紙の多層性。紙は薄いが、束になると想像以上にずしりと来る。
あまりにも重いので、本屋でバイトをしていたときはよく腰を痛めそうになっていた。紙が木からできていることを考えれば、ほとんど同じだけの材木を抱えているのと同じであるから、重いことにも納得がいく。
同時にそれは人の思いの重さでもある。(紙には、人間の考えたことしか書かれていない。恐るべきことに。)
紙の始まりは宗教であった。紙の役割が最後まで残るのも、宗教なのかもしれない。