大いなる自由

芦花
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公開:2025/10/18

[ストーリー]

第二次世界大戦後のドイツ。男性同性愛を禁じた刑法175条の下、ハンス(フランツ・ロゴフスキ)は自身の性的指向を理由に繰り返し投獄される。同房の服役囚ヴィクトール(ゲオルク・フリードリヒ)は、“175条違反者”の彼を嫌悪し、遠ざけようとするが、腕に彫られた番号から、ハンスがナチスの強制収容所から直接刑務所に送られたことを知る。己を曲げず、何度も懲罰房に入れられる頑固者のハンスと、長期の服役によって刑務所内での振る舞いを熟知するヴィクトール。反発から始まった二人の関係は、長い年月を経て互いを尊重する絆へと変わっていく。

やっっと見れた。

公開時に気になって前売り買っていたものの、行きそびれて後悔していた作品。

遅れなら見てよかった。号泣した。

1945、1957、1968の三つの時代を描いている。

同性愛が問題視される作品は「蟻の王」もありますが、蟻の王が同性愛者同士の葛藤を描いているのに対し、こちらの作品は「人間の尊厳をどう自認、また第三者がどう受け取るのか」に軸を置いている作品だと思った。

主人公ハンスは、一貫して自身の性指向を曲げないし、偽らない。

だからといって自由のために社会を変えよう、という人間でもない。

社会に出ている時にはそれなりに隠れている。でも見つかったからといって、動揺したり取り繕ったりはしない。

悲壮感がない。

「周りと違う自分」を悲嘆したりはしない。いや、過去にはしたのかもしれないけど、少なくとも画面上の彼はそういった目をしていない。

ある種の強かさみたいなものがあって、それが見ている側は、「もっとうまくやればいいのに」と思いつつ、羨ましいとも感じる。

作中、同じ罪に問われた人が2人登場するのですが、彼らにははっきり周りに迎合できない自分に対する悲嘆が見て取れたので、この違いはすごいなと思った。

作中の二十数年を通して交流するヴィクトールとの関係も良かった。

単なる友情でもなく、性愛というわけでもない。ヴィクトールは異性愛者で、初めはハンスを毛嫌しいているし。

ただ、あのせまい独房や、人道的とはいえない世界のなかで、ふたりにあるのは確かに相手に対する敬意。それか何よりも尊い。

序盤からずっと自身を保っているハンスが、中盤とある出来事によって泣き崩れるシーンがあるのですが、その時にヴィクトールだけがハンスを抱きしめる。黙って抱きしめて、やめさせようとする看守に「人でなし!」と叫ぶ。

これは、愛とか友情とかよりももっと原始的な叫びのような気がした。

人が人の尊厳を犯すことへの怒りというか。

そんなヴィクトールですが、彼の罪状は殺人です。それもまた皮肉というか、反転しているんだろうなあと、色々考えてしまった。

最終的に法改正が行われ、ハンスの罪は罪でなくなりますが、自由になったハンスが取った道がまた妙で良かった。

おすすめします。

@ashika
二次創作をしています。 [個人サイト]clayincl.fun