[ストーリー]
ロンドンに住み、将来を嘱望されている若い作家志望のマックス。
彼はデビュー作となる長編小説をリアルなものとするために、“セバスチャン” という名前で男性相手のセックスワークの世界に足を踏み入れる。
職業を通して体験する未知の世界。
様々なクライアントと接していく内に、マックスとセバスチャンの境界線を次第に見失っていく…。
良作。
「リアル」を追求するあまり、焦点がボヤけてしまう青年の話だと理解した。
主人公は「リアルさ」にこだわっているけれど、求めてる、求められているのは「ストーリー」であって、「リアリティショー」ではない。リアルさは必要だけど、現実になってしまったら興醒めに近い感覚をいだいてしまう。
周りはそれを何度も諭しているのに、主人公だけが分かってない。
それは、主人公がセックスワークを続けていくうえで、ある種の「言い訳」が必要になってしまったからかなと。
「これは小説のためなんだ」という言い訳。そうじゃないと、「ただのありきたりな現実」になってしまう。そんな焦りも読み取れた。
その「言い訳」を、たまたま自分と似た感性をもって受け入れてくれた大学教授に求めてしまったのかなと推測した。
でも、それこそが筋違いで、そうなってしまうとただの恋愛小説になってしまう。
当初、彼や編集者が求めたものとは違うストーリーになってしまうんじゃないかな。おそらく、当初はもっと社会的な訴えをもった小説を書く予定だったのかなと。
主人公は、その心境の変化も込めて「リアル」って訴えたかったみたいだけど、それでは「小説」ではなく「人生」になってしまうので。
そこが噛み合わなかったのかなと。
パンフレットに自己受容という言葉があったけど、彼はわりと後半までそれを他人に求めているなと感じた。
でも後半で、小説を一人称に変えた描写は良かった。
おそらく「私小説」というジャンルにして出したのかなと推測。
私小説とエッセイは似て非なるものなので。これはそうだったらいいなという私の願望も入っている。
彼は小説家としてこれからだと思うし、それはセックスワークを経験したためのリアルさではなく、セックスワークを通して、他人の思いや、尊厳に直接触れたことによる他人への受容――そこにリアルさを求めていってほしい。