実家と今住んでる場所の近所に小さいパン屋さんがある。
今流行ってるような小洒落たパン屋さんではなくて、昔からあるパン屋さん。
小さい頃はよく朝起きて奈々美(母)に「食パン買ってきて」と言われて買いに行ってた。
食パンを切ってもらってる間、暇な私は厨房を覗き込んでおっちゃんがパンを捏ねてる姿を眺めていた。
そうしてると必ず「これな、帰ったらすぐお母さんに焼いてもらうんやで」って、捏ねた生地(発酵済)をくれる。
食パンとZAQのキャラみたいな(ざっくぅというらしい。初めて知った。)ふにふにの生地を持って帰り、それらを朝ごはんとして食べるのが私は好きだった。
駄菓子屋もスペースもあったからたむろすることもあったけれど、そうしてたら「ヒマやろ。手伝って。」ってゆで卵の殻を剥かされた。
「これお家帰ったら焼きや。」
報酬はもちもちのパン生地。
今日の朝、最近見かけないおっちゃんがどうしてるか聞いたら去年亡くなってた。
前の日も変わらずパンを焼いていたのに、朝になっても現れないおっちゃんを不思議に思って様子を見に行ったら倒れてたらしい。
「もう90やったからね。本人は100歳までパン焼く気やったみたいやけど。今も自分が死んだことわかってなくてパン焼いてるかも」
いつもレジしてるお姉さんはそう言って笑うから「たしかに焼いてそう」と私も笑った。
厨房を覗き込んだら、オーブンも生地をこねる機械も動いてなかったのに
なんとなくおっちゃんがどこかにいるんじゃないかと思って、ちょっとだけ泣きそうになった。