
「懐かしいジャンルの作品オンリーが開催されるのでサークル参加して本を作る!」
と友人が言い出したのは今年の二月の下旬のことだ。五月五日のイベントで、まだまだ先のことだった。
「中学生くらいの頃にコピー誌を作ったことはあるけど印刷所に頼んだことは一度もない、教えてほしい」と相談され、安い印刷所をひとまず伝えた。私は私で三月末のイベントに向けて必死で原稿を書いていた時期だったので話はそこで終わった。薄情なことではあるが自分の原稿とスペースのディスプレイの方が切実というのもあったし、実務家でお仕事ができるタイプの人だからまあ自分でなんとかするだろ、とも思っていた。
話がちょっと違うかもな、と思ったのは三月下旬だ。
三月末に参加するイベントで、私はこの友人にお手伝いを頼んでいた。年度末は忙しいので当日ドタキャンも大丈夫だよ〜くらいの温度感。そのイベントの一週間ほど前に、「教えてもらった印刷所の予約の仕方がわからない」という連絡が来た。マジか。同人誌専門ではないぶん知識のない人にもハードルが低いところだと思い込んでたけどそうでもないのか。おかげでイベント会場で友人の印刷所予約をするという謎実績を解除したが、ここでちょっと不安を感じた。
イベント終わりの打ち上げの間、友人はずっと今自分が書いている小説の話をしていた。こうやって書いてこうやって読み返し、推敲はこんなことを考えながらやって、この部分は何度も書き直して……もうずっとめちゃくちゃ楽しそうだった。苦労はあるけどそれが大変だとは思わないみたいな、創作ボーナスタイムだ。本編を書きだす前に習作をいくつか仕上げたりもしていたようだし、その時点で締め切りまであと一ヶ月だからまあ余裕……余裕なんかな、私だったら締め切りまで一ヶ月で完成してる話が一本もなかったら不安で胃袋を吐くが……。あと表紙とか付き物のことは考えてるのかなとか考えつつ、その日は自分のイベントがいい感じだったので双方ご機嫌で解散となった。
友人の締め切り一週間前に、以前からの約束で一緒に遊びに出かけた。打ち合わせの時点で「締め切り一週間前だけど大丈夫?」と確認し、「さすがに一週間前ならめどはついてるだろうから大丈夫!」と聞いて決めた日程だ。
什器やスペース用の布を貸す約束をしていたので、ついでに組版の相談とかを受けることになると予想して「はじめての小説本の作り方」みたいな本を厳選して持っていった。
「まだ本文をラストまで書けていない」
マジか。
衝撃すぎて何も言えなかった。マジかよ。私は今日校正頼むってテキストファイル渡されて表紙の紙の相談とかに乗るつもりでいたよ。
表紙とかの事務ページ類はできあがっていて本文だけ粘っているのかと思ったら、
タイトル決まってない
表紙は作っていない
という状況が明らかになった。すごい。よく今日来てくれたね!?!?!その状況ならリスケでよかったよ!?!?!!?!
震えながら無料素材で有名な人のピクシブアカウントを伝える以外に、私にできることはなかった。ギリギリすぎる。
もちろん手伝うことを考えなかったわけではない。ないのだが、そもそも私は人生を賭けた自カプのオンリーに向けて必死で原稿をしている最中だし、締め切り一週間前に作業を引き受けて自分が事故る可能性を考えたら言い出せなかった。頼まれても引き受けられなかったと思う。
怖くて連絡をとれないまま締め切り直前の土曜を迎えた。命を削ってる自カプオンリーのために、合同誌を一緒に作ってくださる方との打ち合わせ兼個人誌の表紙のお礼アフタヌーンティーをしばく日だ。媒体は違えど凄まじいこだわりによる奇行が常態化しているすごい方で、お話しているだけで楽しすぎる人なのでもうウッキウキで大荷物を抱えて出かけて行った。
そこに友人から連絡が来た。
「本文書き上がったから確認してもらえる? 無理なら大丈夫だから!」
だいじょうぶじゃないけどかくにんするよ!!!!!!!!!!!
一緒にいた方に断って(個室だったのでその方も原稿をされていたのが幸いだった)誤字脱字を必死で拾って返信した。なおこの時点で送られてきたのは、組版がまだの、ワードを単に縦書きにしただけのpdfだ。タブレットを持ち込んでいたのでpdfに直接文字を書き込んで返信した。組版後にどうなるかは見る余裕がない。今日は土曜日、締め切りは月曜午後、明日も私は予定がある!
どうなることやらとハラハラしていたが、結局友人はなんと無事に脱稿した。入稿作業の最中とおぼしきタイミングで「こないだもらった本の表紙の紙は何?」「ミランダ白ってなに? ミランダスノーホワイトとは違うやつ?」という質問が来たりして、恐怖による尿もれをこらえながら返信した甲斐があったというものである。
イベント前にはお品書きやポップ(以前私が描いた絵を使わせて欲しいという打診があったのでOKした)、値札に無配まで作っていた。えらすぎる。あの地獄みたいな状況からの一発逆転がすごすぎたので、ここに記しておく。
でも怖いから次からはひとりで頑張ってほしい。