学生の時に研究滞在でイギリスのダラムに三ヶ月だけ行くことになった。滞在先は大家さん(四十代、シングルマザー)、子供(四歳)、犬が一匹、猫一匹。当時コロナ禍真っ只中で自由に他人を訪問できなかったのと、そもそも滞在期間が短かったので、オンライン内覧で住まうところを決めた。それが間違いの始まりであった。当たり前だが、オンラインでは部屋の広さ等わからず、いってみたらとてつもなく狭い部屋に住まされることになった。安かったのでそれはしょうがないのだが、困ったのは壁が恐ろしく薄く、また子供のために八時以降は音を立ててはいけないという暗黙のルールがあることが発覚し、八時以降はトイレも行けないしパソコンのキーボードの音すら立てれないようなピリピリした状態であった。
それが始まりで、その後大家さん自身および彼女の家庭の問題を直面することになり、研究どころではなくなってしまった。家賃を先払いをしたことを非常に後悔したが、本当に身の危険を感じたので一ヶ月後には逃げ出すことになった。残りの二ヶ月はAirbnbで滞在し、その間はなんとも当たり前の生活に感謝しながら研究滞在を終えた。たった一ヶ月だけれど今まで平凡な人生を送ってきた自分には割とショッキングな出来事であり、思い出すだけでもあの頃の気持ちが戻ってきて気持ち悪くなるのだが、唯一今でもふと気になるのは一緒に住んでいた猫ちゃんである。当時子猫でとても可愛らしく、餌をあげない私にも懐いてよく私の部屋に入ってきたりした。コロナ禍で授業も調査もオンラインが多かった中で、あの猫ちゃんがいたからちょっと頑張れた気がする(まぁでも結局逃げ出したわけだけど)。私って猫を飼ったことないけど、猫に助けられてばっかりの人生だなぁ。あの猫ちゃん元気だといいな。