*自分の家の本棚をゆるく紹介する企画です。
37冊目「宇治拾遺物語」町田康訳、河出文庫(古典新訳コレクション)
宇治拾遺物語は、鎌倉時代に成立した説話集。それを町田康がファンキーな日本語で現代訳したものがこれ。説話集というとどうしても辛気臭い訳が多いのだが、町田康節全開の町田康劇場であるため、格調の高さを求めてはいけません。私が好きな話は「中納言師時が僧侶の陰茎と陰嚢を検査した話」で、まあ読んで字のごとくの話で、しょうもない下ネタなのだけれど、これがどうして捧腹絶倒で面白いのだった。本当に本当に死ぬほどしょうもない下ネタなのに、しかし約800年間にわたりあまたの人々がこの死ぬほどしょうもない下ネタ話で爆笑してきたのだろうと思うと、なんだかそのことだけで笑けて来る。おかしさ、面白さってのは時代が変わっても変わらないのだろう。電車の中で読むことはお勧めしません。なお、講談社から同じように「古事記」も出ている。
38冊目「日本霊異記・発心集」伊藤比呂美訳、河出文庫(古典新訳コレクション)
「日本霊異記」は平安時代に成立した日本最古の説話集。「発心集」は鴨長明作で鎌倉時代に成立した。どちらも仏教説話集である。説話集は「歴史書ではない」という点で面白さがあると思う。書かれていることは歴史上の英雄や事件ではなく、人々の暮らしであり、当時の人々にとって世界はどのように見えていたのか、ということである。「天王寺の聖の隠れた徳の事。そして乞食聖の事」と題された説話が、ロシア正教におけるюродивый(聖愚者)とよく似ているのでとても興味深い。こうした民間における信仰の様子がほがらかにさりげなく書かれている点も説話集の面白さである。
39冊目「キエフ洞窟修道院聖者列伝」三浦清美訳、松籟社
「キエフ洞窟修道院」は11世紀に開かれた修道院で、中世ロシアにおいて東方正教会の精神的な中心であったそうだ。その成り立ちから、ここで生活した修道士の聖と俗が物語られる。厳かでありながら素朴で、優れた芸術性と文学性を感じられ、なんとなく開いたページを読むだけでも十分に楽しめる。私は「カラマーゾフの兄弟」を理解するための1冊としてこれを本棚に置いているのだけれど、ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」で、アリョーシャがゾシマ長老の生涯を後年まとめたとされる章があるが、まさにあれはこの「聖者列伝」の様式に則って書かれていることがよくわかり、「キエフ洞窟修道院聖者列伝」をはじめとした多くの宗教書を読み血肉としたことは疑いようがないと思う。類似のものとして、中村喜和編訳「ロシア中世物語集」(ちくま学芸文庫)もよい。