*自分の家の本棚をゆるく紹介する企画です。
22冊目「河童が覗いたインド」妹尾河童、新潮文庫
妹尾河童がインドを回り、見て感じたことをスケッチしたものをまとめたものがこの本だ。この人の行動力と好奇心というのはとんでもないとこの本を読むと思わされる。全ての字が直筆(手書きである)、緻密なスケッチも直筆というなかなか特異な本である。さすが本職は舞台美術家というところか、空間の捉え方がすごく上手いなあ、とスケッチを見ると思わされる。宿泊したホテルをいちいち俯瞰でスケッチしているのもなかなか面白く、ぱらぱらとめくっているだけでも目に楽しい。もちろん軽妙かつ豊富な観察眼によって綴られたエッセイも大変に読みごたえがある。グローバル化が進み、その国その土地特有の文化が消えていく方向へ向かっている中、こうした旅行記は当時の文化を知る上で貴重な資料になっていくのではなかろうか、などと素人が思う。なお、ヨーロッパ編もある。
23冊目「雨天炎天」村上春樹、新潮文庫
実は、村上春樹は旅行記がすごく面白い。その中でも特に気に入っているのがギリシャとトルコの辺境を旅した「雨天炎天」。ギリシャ編はアトス半島の旅。ギリシア正教の修道院が多く所在し、女性は立ち入りが禁止されているという地域だ。それらの修道院を泊まり歩きながらアトス半島を回るという旅なのだが、全てが予定通りにはならない珍道中である。宿泊した修道院はそれぞれ異なった規則やもてなしがあり、接遇する修道士たちも色々で、そうした観察も面白い。トルコ編も負けず劣らずの紆余曲折の珍道中で、しかし書きぶりはいたって飄々としているので、そういう落差もまた面白さがある。
24冊目「溶ける街透ける路」多和田葉子、講談社文芸文庫
ドイツ在住の作家、多和田葉子によるエッセイ集。ドイツやポーランドなど様々な都市を巡った記録であるが、観光旅行としてではなく、友人に会うためとか、仕事のためとか、日常の延長としての旅が書かれているのが魅力だ。行く先々で会った人、見たもの、仕事、感じたことが豊かに綴られる。和多田葉子の似たようなエッセイには「言葉と歩く日記」(岩波新書)というのもあり、こちらはタイトルの通り日記形式だ。どちらもドイツでの作家活動を覗き見ることができ、あるいは帯同させてもらっているような気持にさせてもらえるし、多和田葉子という人が相当にエネルギッシュな人だということがよくわかる。そもそも、大学を出てすぐひとり異国に暮らそうという気概が既に常人離れしているのだった。