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ブローガスト10日目(2026/8/14)

八月の光
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公開:2026/8/14

*自分の家の本棚をゆるく紹介する企画です。

28冊目「沈黙」遠藤周作、新潮文庫

 ポルトガルのイエズス会士らが、宣教のため日本へ入った高名な司祭が棄教したとの報に接し、江戸初期キリシタン迫害下の日本へ潜入する。作中、とある人物が「この国はキリスト教など根付くわけのない『沼』だ」と発言するのだが、一神教世界観と日本の宗教観の相容れなさがよく現れた台詞だ。日本人キリシタンらが信じた神とは、「神」という名ではあるがイエズス会の教義にある神とは全く別物で、キリシタンらはまともに教義も理解していない。しかし、彼らはその「神」のために殉教していくのだった。今の世と違い、信仰は個人の自由になるものではなく、ある共同体に属するためのツールとしての側面もあった。棄教したとて、そうすれば生まれ育った共同体にはいられず、外の世界へひとり出てゆかねばならない。それは極めて死に近い。単なる頑迷な信者と笑えない側面もある、ということを理解して読むべきだと思う。スコセッシ監督の映画化もよく、(なぜそんなに住民らは英語に堪能なのだ?)という疑問を演出上の問題だと呑み込みさえすれば大変面白かった。長崎奉行を演じるイッセー尾形の快演がよい。

29冊目「文字渦」円城塔、新潮文庫

 定期的に読み返したくなる魅力的な連作短編集だ。カテゴライズが非常に困難だが、あえてするならばSFになろうか。単なる言葉遊びの領分を超えて、文字とはそれ自体で生き物なのではないか、と思わせるに充分な迫力がある。小ネタも満載でクスリと笑わせてもくる。元ネタは中島敦の「文字禍」と思われる。「文字渦」を初めて読んだ時、日本語話者でよかった、この小説は日本語を解するものでなければ真に面白がれないと思ったものだが、これの中国語翻訳がなされたそうである。これをどうやって日本語以外の言語にするのだろうか、と素朴に思うのだが、それは文字・言葉の可能性を軽視している素人考えだろうか。

30冊目「精霊たちの家」イサベル・アジェンデ、木村栄一訳、河出文庫

 チリをモデルに、白人による収奪の歴史と、世界で初めて民主的な手続きを経て社会主義政権が誕生し、それが某国の画策によって崩壊するまでの日を描く。白人家系の女性三世代の視点で書かれている点もまた面白い。いわゆる魔術的リアリズムを駆使した南米文学の傑作。終盤につれてひどいシーンが増えてくるのだが、これもまた人間の営みよ、と思う。著者は、チリ大統領サルバドール・アジェンデの姪。ピサロ(コンキスタドール)の南米上陸後の歴史を知ると、他国の占領下になって自決権を明け渡した後、そこでは何が起こるのかということについて考えざるを得ない。今もなおチベット自治区やウクライナをはじめ世界中で起こっていることだが。メリル・ストリープ主演で「愛と精霊の家」という名前で映画化もされた。

@augsutus
主に日記を書いています。