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ブローガスト11日目(2026/8/17)

八月の光
·
公開:2026/8/17

*自分の家の本棚をゆるく紹介する企画です。

31冊目「氷」ウラディーミル・ソローキン、松下隆志訳、河出書房新社

 「氷」を紹介してしまうと、「ブロの道」「23000」も同時に紹介せざるを得ない。3作あわせて「氷3部作」と呼ばれることが多い。私の本棚にはロシア文学番地があるが、この3冊はその最重要地区に長年鎮座している。金髪碧眼の不思議な力を持つ男女たちが、世界中に散らばった仲間たちを「目覚めさせ」、ある目的を達成するために歴史の裏、世界の闇の裏で暗躍する一大叙事詩。ロシア現代文学の怪物ソローキンは、ロシア・アヴァンギャルドの系譜上にいる作家で、現代ロシア文学の中では最重要の人物の一人ではなかろうか。独裁化する政権やオリガルヒ(ソ連崩壊後に勃興した新興財閥)への批判を隠さないため、こんな小説を今のロシアで発表して大丈夫なのだろうかと心配していたところ、近年ドイツに居を移したようである。著名な作品として他に「青い脂」もあるが、初読者にはこちらの氷3部作をお勧めします。ソローキンの著書の中では、最も読者への歩み寄りがあり、またエンタメ的にも楽しめるのではないか。

32冊目「チェヴェングール」アンドレイ・プラトーノフ、工藤順・石井優貴訳、作品社

 プラトーノフはソ連期に生きた小説家。電気工や新聞記者などをしつつ小説を書き、スターリンを熱烈支持し共産党にも入党していたが、やがてスターリンに疑問を抱く。当局に目をつけられ小説家として活動できなくなり、不遇のまま死去。ソ連崩壊後、娘によって作品が発表され再評価されたという人物。「チェヴェングール」は、作中登場する架空の共産主義の理想郷の名称。理想郷を追い求める青年の旅に読者は同伴することとなる。人類の理想の社会を求める共産主義、その支持者であったプラトーノフが「理想郷」を描こうとすることに思いを馳せる。プラトーノフの文体は非常に難解、そして大変分厚いので気合いがいる。ちなみに「プラトーノフ」は古代ギリシャの哲学者の姓「プラトン」がロシア化したもの。ペンネームではなく実名なのがすごい。

33冊目「死の家の記録」ドストエフスキー、工藤精一郎訳、新潮文庫

 ドストエフスキーが政治犯としてシベリアに流刑されていた経験を踏まえて書かれた小説。小説というよりもルポルタージュに近いのかもしれない。なんだかタイトルだけを見るとおどろおどろしいのだが、中身は服役中に出会った人々との交流、観察、思索の記録で、意外に明るくユーモアがある。チェーホフの「サハリン島」にも通ずるロシアという土地の性格、ロシア人の性格が窺われるのだった。ドストエフスキーの小説を読んでいると、彼はお祭り騒ぎ・馬鹿騒ぎを書くのが本当にうまいと感じるのだが、「死の家の記録」でもその腕は存分に活かされている。服役時代の体験はドストエフスキーの作家としての深みを形作ったものであるし、「カラマーゾフの兄弟」のミーチャやアリョーシャの原型らしき人物も描かれていて、ドストエフスキー理解には重要な1冊だと思われる。

@augsutus
主に日記を書いています。