日記(2026/4/11)

八月の光
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公開:2026/4/11

 今朝のジェット船で神津島へ行く予定だったのだが、天候不良で欠航となってしまった。欠航判明が朝6時。手持ち無沙汰となって、しかし神津島にも登山に行く予定で、気持ちは完全に登山だった。そういうわけで、初志貫徹すべく陣馬山に行くこととした。そうでもしなければ、この寂しさを晴らすこと叶わない。神津島に行くはずだった大荷物から登山装備だけを引っこ抜き、駅前のコンビニで食料を調達して電車に飛び乗った。今回準備したのは25ℓの小さめのリュックのため、水や食料は逐次現地調達にすることとした。

 高尾山には何度も行っているが、陣馬山には来たことがなかった。JRの藤野駅(神奈川県)から登山口までバスか、2キロほどを歩かねばならないので、高尾山に比べると少し心理的ハードルが上がる。バスの時間に間に合うように行ったのだが、晴れ晴れとした気候のためか、出発時間が遅れて出遅れたためか、バス停には大行列ができている。臨時便にも乗り切らないほどで、諦めて登山口まで歩くことにした。

 この古びたトンネルを抜けていく。先導がいる。

 歩いていると、桜をはじめとして春の花々が権勢を争うように咲いており、視界が退屈しない。これは可愛いムスカリ。ムスカリを見る度に、こういう花は私の子供の頃あっただろうかと思う。あまり見慣れない花だ。可愛いけれど、近年広まった外来種なのだろう。オレンジ色のあいつ(ナガミヒナゲシ)は、種をため込んだ実がおどろおどろしくて好きではない。同じ地中海原産の外来種だというのに、印象で好き嫌いを決めるので、人間は勝手なものだ。

 登山口近くにあった無料販売所。山椒をもらって帰りたかったが、不覚にも100円玉を持っていなかった。

 民家の間を抜けてようやく登山口へ到達。地蔵がフリースを着ていた。こうして地元の人が丁寧に管理をしているのを見ると、気持ちが温かくなる。通勤路の途中にも地蔵があって、近所の方が世話をしているようだが、何か一生をかけて手入れをするものがあり、それを実直に世話し続けていくならば、人生は深く豊かな意味を持つのではないかと思いもする。そして、それを突き詰めれば修道院や坊主・尼の生活ということになるのだろう。今のところ、私はそれを見出していない。ここを登っていくと、立派な枝垂れ桜があった。下に立って見上げると、桜のはなびらがひらひらと舞い、日の光を浴びて輝く。

 林道はよく整備されていて歩きやすい。日が遮られ、風は涼しい。バスは行列だったが、高尾山と比べればかなり人通りが少ないので、ストレスなく歩くことができる。穏やかな登りが続き、陣馬山山頂へ到達。有名な馬のモニュメントがある。思ったよりも小さくて拍子抜けした。かなり昔(1960年代)からあるらしいが、作者は不明。京王電鉄が陣馬山の観光地化のために建てたらしいという情報を知る。「陣馬」はもともとは「陣場」と書いたそうだが、昔合戦でもあったのだろうか。

 茶屋で大休憩をする。「陣馬そば」なるものを注文。理想的な山菜蕎麦だった。薬味の青葉のアクセントが効いている。関西出身故、醤油仕立ての関東風出汁にはあまり馴染みがないが、こういう食べ物だと思えば美味しい。

  晴天と富士山、山桜。

 陣馬山から景信山、高尾山へと歩行を再開。陣馬山山頂は全行程の4分の1でしかない。尾根の道を歩いていくのだが、高尾山口駅までまだ15キロを残しており、ここからが持久力と体力が試されることとなる。この日の気温は山頂でも20度と初夏のような暑さである。暑さに慣れていない体を鼓舞しながら、長い道のりを集中力を切らさずに歩いていかねばならない。

 歩きながら、世に言う「体力」とは何だろうと考える。「体力がほしいなあ」と思う時、大抵の場合純粋な肉体的・筋力的なことを言っているのではなく、「生活のための資を得るための活動を行いつつ、趣味に全力に取り組める能力が欲しい」という意味合いにおいて言っているように思う。スポーツにおける体力と、社会活動を営むタフさはどういうわけか一致しない。肉体的な能力というのはそれを実現するための付随的な要素でしかないし、肉体的な能力だけでは実現できない。つまり、精神的営みも「体力」の一要素を為しているように感じられるわけだが、実はこの精神的なものの方が「体力」の根幹を成しているのかもしれない。一流のアスリートは、大抵思考力の面においても一流だろうし。そんなことを考えるが、暑さと体の疲れで思考がばらけ始めて、下山したらビールを飲みたいということが頭の中を占め始めたのだった。

 景信山へ到着。ここまでは高尾山口駅から何度も来たことがある。ここからは見知った風景となり、急に人の数も増え始める。ここでようやく全行程の半分ほど。まだ8キロを残している。疲れた体が糖分を求めはじめ、アイスを食べたいなあと思ったが、茶屋に置いていなかったので素通り。更に進んで城山に到達し、ここの茶屋でようやくアイスにありつく。普段は食べないバニラモナカジャンボ。登山の楽しみは、普段は断っている甘いものを罪悪感なく食べられることにある。

 アイスで元気を出して、一気に高尾山口駅まで下山。稲荷山遊歩道を降りる途中が脚の疲れのピーク。体の疲れもピークに差し掛かってきて、眠気に襲われるが、頭の中で「ビール、ビール」と思いながら最後の下りをいく。今日の成果。9時に藤野駅を出発し、15時半に下山。休憩を含めて6時間半の山行であった。歩行距離21キロ、累積高低差は2000メートル。目当てにしていたのは高尾山口駅前になるクラフトビールが飲める店だが、営業していなかった。でも、ここで飲んだらきっと帰りの電車の中で寝るだろうと思い、英断をして帰りの電車に乗る。

 自宅の近くまで戻ってきて、夕飯もかねて「ぎょうざの満州」へ寄った。ここで念願のビールをいただく。ビールはいつ飲んでも美味いが、こんなに美味いビールを飲んだことがない。鶏胸肉の唐揚げと玄米ご飯でタンパク質と糖質を摂取し、家に帰ってお湯につかり、ストレッチをして、眠気に襲われながらこの日記を書いている。船が出ていれば今頃は満点の星空を見上げていたはずだが、神津島は逃げはしないだろう。また計画しよう。

@augsutus
主に日記を書いています。