*自分の家の本棚をゆるく紹介する企画です。
49冊目「踊り候え」鴨居玲、神戸新聞総合出版センター
あの画家の鴨居玲である。数年前、新宿に鴨居玲の展示会を見に行った際、物販コーナーで見つけたエッセイだ。鴨居玲と言えば、あの染みついた死の気配の染みついた自画像だが、あの絵を描く人が書いた文章とは思えない思いがけない軽やかさがあり、絵が上手い上に文章も上手いとはと感心させられた。鴨居玲の絵が好きだというと「メンタルを病んでいるのか?」と思われるのではないかと思い、言いづらいところがある。ところで、「私は驢馬に乗って下着を売りにゆきたい」の作者である鴨居羊子とは兄妹である。それぞれもともと別で知っていたのだが、兄妹だと知った時は驚いた。
50冊目「オリガ・モリソヴナの反語法」米原万里、集英社文庫
米原万里は、冷戦下のプラハへ語学留学し、その後は通訳や小説家とした活躍した人。父は日本共産党の衆議院議員で、その関係で当時のチェコスロバキアへ一家で渡り、現地のソビエト学校の通ったというなかなか面白い経歴の人物である。主人公は、その彼女自身を模した女性。少女時代に留学したプラハ・ソヴィエト学校で、オリガという謎めいた女性教師に出会う。そして30年後、ソ連崩壊後のロシアを歩きながら、オリガという女性の半生やソビエト・ロシアの人々の暮らし、過酷なスターリン時代の記憶を掘り起こす。少しずつ謎が解明されていくミステリー仕立てとなっている。本作の少し前にはソ連崩壊後に消息を絶った友人らを訪ねた記録「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」を発表しており、ソ連消滅後の混乱したロシアに心を寄せ、小説の着想となったことをうかがい知ることができる。
51冊目「今夜、すべてのバーで」中島らも、講談社文庫
すべての酒飲みに捧げられたアル中小説。中島らものアルコール依存入院記録という体なのだが、それ以上に酒を飲むすべての人間に対して警告するとともに、人類の友である酒の偉大さを称えようとする小説。小説に書かれた数々の行動は、善悪の基準がぶっ壊れている。「そうまでして飲みたいのか?」と思うのは酒を常識的に嗜む側の人の発想であって、「酔うために酒を飲む」上、それなりに酒に強く量が飲めてしまう人間である私としては何かのほころびで転落しそうになるので、気安く笑うことはできない。酒に起因する失敗は山としてきて(吐いたり、号泣したり、人に絡んで怒られたり、神社や公園の敷地で寝たり……)、色々と酷い目にも遭い、人に迷惑をかけてきたが、同時に酒に救われてきたとも思う。酒とは永遠に友人でありたいし、だからこそ程よい距離感で付き合いたいと思うのだった。