没世界観 その2

autochusu
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頭に思い浮かんではいるが力不足ゆえに作品には出来ない…

そんな世界観を供養しようのコーナー。

  1. 鍵盤の隙間に何かが棲みつく世界

 ピアノ、オルガン、クラビネット。隣り合う白鍵黒鍵のその隙間に、良くないものが棲みつく。楽器が新しいうちは現れないが、幾度と無く弾かれ年月が経つにつれいつの間にか鍵盤の隙間に夥しい数のそれが蠢く姿が見られるようになる。

 数が少ないうちは害の無い存在だが、少し増えると鍵盤の音を狂わせたり演奏者の指を引っ張ったりする。更に増えるとしっちゃかめっちゃかに鍵盤を鳴らしたり、恐ろしく不快な不協和音を発して周囲の人間に頭痛や目眩を引き起こしたりする。そのため、鍵盤楽器には定期的な調律が必要となる。

 この世界における調律は、鍵盤を演奏しながら微分音程で歌うことで為される。隙間に巣食う者たちには個体ごとに固有の共鳴周波数があるらしく、その音を充分な音量で一定時間聞かせると消滅する。ただし電子音や楽器の音では効き目が薄い。人の歌う声、とりわけ女性の歌う声が最も効果的である。そのため、この世界の調律師は大半が女性だ。

 鍵盤の隙間に棲むものたちの正体はよく分かっていない。一説には十二平均律から零れ落ちた音どもの成れの果ての姿だと言われている。