脳裏に浮かんだ記憶の再生が終わる頃、ふたりの身体は動かなくなっていた。千里眼と順風耳の亡骸を見下ろし、星首は深い息を吐いた。
……そうであった。そのようなこともありました。このふたりからは、私も勇気や気力を貰った。まさか観想の内に現れて、私を手助けしてくれるとは。
と、呟く頃には、鼻をつくような異臭は消え、血溜まりも消えていた。ふたりの亡骸はいつまでも腐ることはなく、代わりにだんだんと指先から透けていき、ついには一片残らず消えてしまった。星首のことをただの壺としか認識しない村人たちは不気味がって、騒ぎのあった近辺には近づこうとしなかった。しまいには、道士たちが村人を驚かすためにしでかしたことだろうと言って、道士たちの持ち物であった星首は旅の行商人に売られてしまった。壺となり、水瓶となり、瓶子となり、さまざまな場所を転々として、ついには人気の消えた破れ寺などに放置され、雨風に打たれた。その破れ寺の裂けた屋根から雨が漏れて、一滴また一滴と雫が垂れた。
その間も、星首、否、明星は静かに瞑目して過去を思い返していた。
天の声は明星に対して、自我を取り戻したことで、真実の光、仏の境地からは遠のいてしまいましたよ、と語りかけた。それでも明星は芋蔓式に記憶がよみがえってくるのを止められない。
……思えば、大陸において観想するうちに、後の世で民間信仰の対象となっているという済公……道済殿と小宇宙の片隅で飲み交わした記憶も蘇ってきました。あの宇宙では、私は時空の法則を超えてさまざまな存在に接触することができた。私達は悪童同然だった。しかしそれで自然のまま、善いのだと思った。道済殿に触発されて、『理趣経』にあるように、私は飲酒や妙適すらも心のままに清らかな仏の境地のひとつとして認識するようになったのでした。
明星の独白を聞いているのかいないのか、天の声はふたたび、真実の光からは遠のいてしまいましたよ……と繰り返すのだった。