【novel首塚】星を目指せば/15.中天

awawai
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公開:2025/11/15

道済について語ろう。道済は、南宋の時代に生きた臨済宗の僧だ。星首からすれば未来の話である。十八羅漢のひとり、降龍羅漢が世に下った存在がこの道済で、済公(チーコン)という尊称で呼ばれ、大変強力な神通力を持つとされる。一説には、中天に照りつける過酷な日照りの土地に雨をもたらすなど、天候を自在に操ったらしい。神にも等しく崇拝されている高僧が、なぜ時を超えて獣の糞にまみれて飲んだくれているのか。

火が小さくはぜる。星首が瞑っていた目を開けると、焚き火を囲うようにして千里と道済が横になり休んでいた空き地が見える。まだ暗い闇のなか、目を凝らすと千里だけが居ない。次第にぼんやりと風景が見えるようになってきたので目玉を動かすと、木々が鬱蒼と密生する茂みの近くに、道士の千里がうっそりと佇んでいた。星首は思う。いや、千里ではない。姿だけ似せた何者かが、こちらを見つめているのだ。その何者かは、薄い唇を開いて語る。

……ここは、あなたのなかの宇宙、あなたの額の光。あなたがなぜ胴と四肢のない、不自由な身の上であるのか、よくよく思い出すのです。己が何者であるかを思い出すのです。

星首は直感した。これは万物の慈母の声だ。大いなる存在が目の前に居るのだ。ただし、具体的に言って何者なのかを、どうしても思い出せない。暗闇のなか鏡の前で自分の顔が映らない、鏡すら見えない。手足がないから鏡を探して彷徨うこともできない。そんな感じだった。大いなる存在が何者かわからないことは、自分自身が何者かわからないことと深く関係しているように感じた。

その時、何者かに上から持ち上げられた。抱えられて、山中を進む。何度か道を間違えながら、夜明け前に山を降りた。そして麓にある小さな小屋に連れ込まれた。小屋に夜明けの陽が差し込む。棚にはびっしりと、人の頭ほどの大きさのものが並べられていた。

@awawai
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