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【novel首塚】星を目指せば/12.野苺

awawai
·
公開:2025/11/12

四季が集う山に彼らは棲んでいた。方角によって、季節の異なる山である。道なき道を、女は歩いている。女の小脇に抱えられて星首も居た。結界を張った山中で木の実や山菜などを収穫して、彼らは暮らしていた。星首はなんとかして道士たちの元から逃れたかったが、文字通り手も足も出ない。仕方なく、年月の流るるままに過ごしている。ざっかけない世間話を交わすうちに、女はある時、ぽつりと語ったことがある。

……ツヒネという女性が、空っぽの星首をいくつも蒐集して、壺として愛でていたでしょう。あの女(ひと)は、我らの師なのです。

……ということは、彼女もかつては大陸に?

……はあ、なんでも、呂祖師の肉体在りし頃に武昌の黄龍山で出会ったことがあるだとか、槐山で薬草を採っていた偓佺仙人に仕えて、ある時陶唐氏に献上しそびれた松の実を服したところ寿命が伸びたのだとか聞かされています。にわかには信じられぬ話です。あの方は、枯れることのない花なのでしょう。滴るような満開の、赤々とした牡丹です。ただし、それが真実なのか、幻術の類なのかは、私たちには永久に分かりません。私たちは彼女に本当に会ったことがあるのか、それとも長い夢を見させられているのか、今だに判然としないのです。

またある時は野苺を口に含みながら、こういう話もした。

……すべての聖人は“反照”の教えを説きます。道教で内観と呼ばれるものはこれを指しているのです。反とは、つまり“還る”こと。赤子のように、天地が自己の内面に形作られる以前の世界の在り様を求めることが“反照”なのです。我々は瞑想によって、この内観世界への入界を目指します。容易くはありません。しかし、あなたがた星首は、一度己というものを失っているから、“反照”の精神を会得しているのです。仙人に近い存在なのですよ。

……しかし私は、仙人などではない。不老不死の法など知りませぬ。

……いいえ、不老不死などあんなもの、俗世において囁かれるたわいもない伝説です。我々が目指しているのは、漏尽金剛、つまり現世において肉体のある限り、力の流出を止めて己の生命を保存する方法に過ぎません。

……しかし、実際にツヒネは。

……長く生きても、死んだでしょう? 少なくとも、あなたにそう伝えたのでしょう?

……私にかけられた壺の呪いが未だ解けませぬ。それは、術者であるツヒネがまだ生きている証では?

……確かめてみたいですか。

星首の必死の訴えを聞くと、赤い果実を手のひらで握りつぶしてみせて、女は薄く笑った。


〈参考文献〉

『中国の信仰世界と道教 神・仏・仙人』二階堂善弘,吉川弘文館,2024

『黄金の華の秘密』C.G.ユング,R.ヴィルヘルム著/湯浅泰雄,定方昭夫訳,人文書院,1980

@awawai
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