掌編/形のない影を追って

awawai
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公開:2025/10/31

消えた友だちを探して、幼い日の私は近所の森林公園を彷徨っていた。それは10月の最後の日で、冷たい小雨が糸のように降る、どんよりとした星の見えない夜だった。

私たちは袋いっぱいに手に入れたお菓子を口にしながら、墓地と教会のある森林公園の近くを通りかかって、気まぐれに森の中へ入った。もしかしたら別の友人たちが、通りかかる人に声をかけようと身を潜めているかもしれない。私たちは度胸試しのつもりで、どちらが先に怖いと言うか競った。

しっとりと濡れた落ち葉が何枚も重なり、土を覆い隠していた。昼間は、カエデの木の紅葉や、ペニセタムの黄色い葉が鮮やかに揺れて人びとの目を楽しませる。ところが今は、お化けのような木々の影や底知れない暗闇がふたりの前に広がっているばかりだった。

「そろそろ戻らない?」

堪らなくなって声をかけたが、隣を歩いているはずの友だちから返事はなかった。ふざけているのかと思って辺りを見回しても、物音ひとつしない。誰も居なかった。友だちの名前を呼びながら、ついに墓地まで辿り着いた。こっそり先回りして私を驚かせるつもりかもしれないと思って、敷地内を慎重に歩き回ったが、友だちの姿はない。私たちが歩いてきたはずの小道を振り返る。お菓子はどこかに落としてしまったし、やけに手足の末端が冷え、感覚がほとんど失われていた。闇の中に白く発光する霧のようなものを見た気がして、無性に恐ろしくなり、私は、晴れた日の散策にぴったりな曲がりくねった道を、雨に打たれながら引き返すことにした。案外明日には普通に学校に来て、「怖くて先に帰ったんだ」と言ってはにかみ笑いを浮かべているかもしれない。私はそれを強く信じた。

あの時と同じ湿った落ち葉を踏む。半世紀以上経った今でも、私の友だちには再会できていない。どこへ行ってしまったのかわからない。友だちのことに思いを馳せる時、私はふと、友だちが消えたのではなく、影も形もない亡霊になったのは私のほうではないかと考えることがある。もう長いこと誰にも会わず、どのように人生を過ごしてきたのかも定かでない。学校を卒業し、毎日同じように働き、休日には日記帳や絵葉書に詩を書いて日々を重ねてきたが、それが空想でないとなぜ言えるのか。これまでの月日が、思い描いた未来を鉛筆で薄くなぞっただけの、心の内での出来事だとしても、私は何ら不思議に思わない。いつからか記憶が淡くなり、世界から現実味が失われてしまった。その始まりが、あの雨の夜だったのかもしれない。

私が私であることを証明できる人は自分以外どこにも居ない。私の友だちが存在したことを証言できるのも、今や私しか居ない。それなのに、自分自身の記憶すら危うい。私の友だちがどんな姿だったか、どんな声だったか、今や思い出すこともできないのだから、嘆かわしい。もし私の友だちに再び会うことができるなら、そのことを謝らなくてはならない。そして、「私と君とどちらが消えた側だったのか」、話し合いたい。そうすれば、少なくともどちらかの魂は安らかに眠ることができるだろう。この私は既に死んでいようがまだ生きていようが、もうすぐ最後の審判の日を迎えるに違いないのだから。

私はゆっくりと墓地と教会に続く道を歩いた。昼下がりの森林公園には、まばらに人の姿がある。昔の影に形はない。カエデの木々だけがあの頃と同じように葉を揺らしている。木漏れ日が曲がりくねった道を暖かく照らしているのに、手足の先は冷え切ったまま、氷のように蒼い。

@awawai
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