獣も鳥も寝静まった夜だ。まだ一同は火を囲んで休んでいる。さっきの問答から四半刻ほど経った頃、星首は意を決して口を開いた。
……道済殿。起きておられますか。
……何じゃ。
……教えてください。あなたはもしや、怨霊なのですか。私は、私自身の認識する世界が何やら空事のように思えて、何も信じることができませぬ。先程、あなたが私を攫い、山の麓の小さな小屋に連れ込んだことは事実ですか。棚に星首がいっぱいに並べられて、はっとするほど立派な髯の首が私を諭したのは、夢だったのでしょうか。
……怨霊ではない。首を集めているのは本当だ。ある坊さんに頼まれてな、この私も酒に溺れながら、そなたのような星首を蒐集しているのだ。奴には飢え死にしそうになっていた時、酒を奢られた恩があってね。それ以来、気の置けない友人になった。その坊さんというのは密教僧なのだが、何を隠そう、その密教僧の観想の森のなかに囚われて彷徨っているのがこの私の正体さ。この私は、奴が見る夢の中に芽生えた人格なのだよ。その美髯の首も、話を聞く限りではかの関帝のように思えるが、私と同じようなものだろうよ。
……では、私も密教僧殿が見る夢の一部ということですか。この森の木々も、星空も、私という自性さえも、現世に存在しないまやかしなのでしょうか。
……失敬、言葉を間違えたな。夢とも言えるし、現世とも言える。これは受け売りだが、この世とは、多くの生命の集合体であるから、その構成要素たる人間一人ひとりのことでもある。私が私であり、そなたがそなたであることこそが、平面的に描かれた曼荼羅の真意、宇宙世界の具現なのだよ。
言いながら、道済の姿が左右に引っ張られて伸び始め、万華鏡の絵柄のように、目の前で道済が二人に増え、さらに四人に増えた。いつのまにか視界は円形になり、木々も空も岩山も上下を失い、くるくると景色が回転していた。