どうせなら、いちばんおいしく食べたい

ayan
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公開:2023/12/4

東京の友人から、世田谷区にあるフランス菓子店・オーボンヴュータン(AU BON VIEUX TEMPS)の「コンポート ポム ジャルダニエ」をいただいた。

原材料は、リンゴ、砂糖、ラベンダー、ヴェルベーヌ(レモンバーベナ)、ミント、レモン、バニラ。シロップに浸かった果肉が光に透けて神々しい。

瓶詰めだけあって賞味期限は2年と長い。きれいすぎて、何にもない日に開けるのはもったいなく感じてしまう。クリスマスに開けようか、それとも記念日? それまでの期間も「戸棚にオーボンヴュータンのコンポートがある」と思うだけで心が華やぎ、改めて友人の手土産のセンスのよさに感心する。

ところで、こういうコンポートは単体でシンプルに味わうのがいのだろうか、それともちょっといいアイスクリームなどを用意するべきだろうか。もしかしたら生ハムというのもありなのかも……。

家族で食べると1人あたりは1カットになりそうだから、一発勝負、失敗できない。いや、どう食べても失敗なんてことはないのだけれど、どうせ食べるならいちばんおいしく、コンポートのポテンシャルを最大限に引き出したい。

どうせなら、いちばんおいしく食べたい。

どうせなら、味わいつくしたい。

食いしん坊な(大量に食べるという意味ではなく、食への興味がとても強い)私らしいフレーズだなと思ったけれど、もしかしたら、これは口から食べることに限らず、仕事を含めた私の“生き方”に通じるのかもしれない。

私はトラベルライターとして、いろいろな国や地域を旅して、見たもの聞いたもの食べたものについて文章を書く。インタビューライターとして、さまざま仕事をしている人に会って話を聞き、想いを聞いて文章にする。

どうせ行くなら。どうせ会うなら。どうせ話をするなら。限られた時間の中で最大限おいしく味わいつくしたい。せっかくの機会を(その僥倖に無自覚なまま)何となく口に入れて、味わいもせず飲み込むなんてもったいなさすぎる。

瓶を開けてリンゴのコンポートに直接フォークを突き立てて口に運び、ものの10秒で食べてしまうことも可能だ。そうしたところで、きっとおいしいだろうし、カロリーも栄養素も摂取できる。

それでも、私は角が取れたリンゴのやさしいフォルムやシロップの染みた色、複数のハーブがとけあった香りを楽しみたい。アイスクリームに絡めらどんな味わいになるのかも知りたい。舌だけじゃなく、目でも、鼻でも、味わいつくしたい。きっと、私は欲張りなんだと思う。

“丁寧な暮らし”をしたいんじゃなく、一瞬で楽しみを終わらせたくないだけ。せっかくの特別なコンポートなのだから。

あの人からもらったしぼり豆丹波黒大豆も、あの人からもらったチョコレートハウス モンロワールのリーフメモリーも、あの人からもらったシヅカ洋菓子店の焼き菓子も、あの人からもらった肥後の胡麻太鼓も、あの人からもらったビスキュイテリエ ブルトンヌのガレット・ブルトンヌも、あの人からもらったルピシアのルイボスティーも、あの人からもらったリオン菓子店のレモンサブレも、器にいれて目でも鼻でも舌でもおいしく味わわせてもらった。

原材料の質や作り手の卓抜な技術、ブランドの世界観もちろんあるだろうが、「おいしく食べてもらえたらいいな」という気持ちでそれを選んでくれたであろう彼/彼女たちの気持ちが、おいしさを一層引き上げてくれる気がする。

@ayan
愛知県在住フリーライター @warashibe