Day8.会話のマナーの難しさ

あゆみ
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 怒りのコントロールに困る、という話をするとき人が想像する「怒り」は、突沸するやかんのように、瞬間的に襲ってくるものだと思う。

 だが、私が困っている「怒り」は、もっとずっとゆっくりな、カイロの低温やけどのようなものだ。

 1ヶ月書くチャレンジ8日目のお題は「最近怒ったこと」。今回は私の心を低温やけどさせた、最近のできごとを書いていこう。

深夜のメッセージ

 ある日の深夜、友人からこんなメッセージが届いた。

前にナンパされた相手と、面白そうだから会ってみたいんだけど、さすがにふたりきりはまずいよね。あゆみちゃんが来れそうなら『友達もいるんだけど~』作戦が使えるかな?」

 大事な友人が、ナンパ男とふたりきりなんて、大変まずい。ちょうどその翌日彼女と遊ぶ約束をしていた私は、その日の夜から翌日の昼にかけて遊ぶことに変更しよう、と提案した。もちろんナンパ男との食事に私も同行する、と送った。

正体はホスト

 ナンパ男くんは少々渋ったが、私の同席を許可してくれた。そうして約束の日、3人で夜に集合したのである。

 さて、なんかすごいイケメンが来たな、と驚いていたのもつかの間、彼は普段はホストをしているらしい。そりゃイケメンなわけだ。いまどきのホストは店に来る客を待つだけでなく、自分からナンパまでするんだな、と妙に感心した。

 価値観はもう全然違うのがひしひしと感じられたのに、食事を囲んでいた約2時間、つまらないことがなかったのは、さすがホストというべきか。次の約束も特になく、あっさり解散になったので少しほっとした。

 そしてそのあとはお待ちかね、友人とたっぷり遊び、私は面白疲れでふわふわしながら帰宅した。

心配性の母

 そんな私を首を長くして待っていたのは、母だった。私がざっくり話した内容から、ナンパ男がホストであろう、ということは察しがついていたようで、それはもうめちゃくちゃ心配された。

「店に勧誘とかされなかった!?」

「されてないよ、源氏名は聞いたけど」

「ホストなんて関わっていいことないんだから、〇〇ちゃんにもしっかり言っておくのよ」

「そうだね……ハハハ……」

「もう、ほんとにわかってるのかしら……」

 ぷりぷりしながら台所に戻っていく母を、苦笑いで見送った。こちらはもういい年齢の大人である。たしかに定職についていなくて、子どもみたいな生活をしてはいるが、そのくらいの分別はつく。母の子ども扱いにも困ったものだ、そう思いながら、私も自室に引っ込んだのだった。

遅効性の怒り

 翌日、昼までぐっすり寝た私は、目覚めてすぐ、疲れによる倦怠感のほかに、なにか不機嫌を覚えていることに気付いた。昨日も一昨日も、とっても楽しかったはずなのに、なぜ?

 軽く紙に気持ちを書き綴った私は、比較的早くその正体に気付いた。

 昨夜の母の対応が、最悪だったのである。

否定されていい気はしない

 心配がつのりつのっていた母の気持ちは理解できる。それはそれとして、そういうスリルも込みで楽しんできた私の気持ちを、まるっと否定されて、いい気がするわけがない。

 せめて、「楽しかったならいいけど……」とか「そっかー」「そうだったのね」とか、なにかしらの「あなたの気持ちを受け取った」というジェスチャーをとってほしかった。

 気分としては、うまく描けた絵を見せにいったら「そんなことより勉強しなさい」と頭ごなしに叱られたような気分だ。

 正しいのはたしかに母だが、正しさだけで人間の感情は整理できない。これが不機嫌のもとのひとつだったのだ。

割り込まないのは最低限のマナー

 さらに、もうひとつ私の心をざわつかせていたのが、昨晩は私が満足に話し切らないうちに、母のお説教が始まってしまったことだった。

 前項にも通じるが、せめて話したいことを全部話し切ってから怒られたかった。私の話はそんなに価値が低いのか? なんだか泣きそうである。

 しかも、最近通っている会話の場では「相手を否定しない」「相手の話を最後まで聞く」のが最低限のマナーとして、ルールに設定されている。それを守る人たちと話すことに馴染みがでてきているので、余計に「割り込まれた!」という驚きが強く衝撃になったのだろう。

 うちの母親は社会の最低限のマナーも守れない人なのか……? 基本的には母のことを好きで尊敬もしているだけに、二重にショックが大きい。

怒りを表明するには遅い

 怒りの正体はわかったが、まさかこれを正面切って母に言えるわけがない。なぜかって、もう一晩経って、すっかりその話題は過去のことになっているからだ。

 過去の話題を蒸し返すだけでなく、そこに怒りを表明するなんて、嫌な奴この上ない。母を反省させることはできそうにないし、逆に、向こうを不機嫌にさせてしまうだけで終わりそうだ。

反面教師にするしかない

 もうこればっかりは、「自分が同じことをしない」方向に学んでいくしかないだろう。

 ひとつ、会話をするときは、自分の感情にばかりとらわれず、相手の感情をよく考えること。

 ひとつ、会話をするときは、相手を否定せず、最後まで話を聞くというマナーをちゃんと守ること。

 ……いやでも、これくらいのことは、改めて学ぶまでもなく、すでにできているような気もする……。自分が常識だと思っていることを覆されたから、怒りが涌いたのだろうし。

 まあ、気の緩みは禁物、ということで、再確認できたことをよしとしよう。