2.ゆらゆら

aza_rashi
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学校帰り。バスに乗って発車まで少し待っていると、ランドセルを背負った小さな女の子がバスに乗り込んできた。手のひらに握っているお金は210円。バスの運賃は220円。運転手に「10円足りてませんよ」と声をかけられ、みるみる不安気な表情になっていく。私までなんだか不安になってきて、お財布を探そうとリュックの中をがさごそやっていると、「今日はいいから次乗る時は気をつけてくださいね」と声が聞こえる。ホッとして顔を上げると、女の子もまたホッとした顔でお礼を言っている。

やり取りを見ていた乗客分の安心を乗せて、バスは走る。女の子は私が降りる1つ手前のバス停で降りるようだった。停車すると、小走りで運転席の前に行き「今日はありがとうございました。」と一礼し、降りていった。

バスの1番前の席が好き。他の席より一段高い位置で、少し隔離してあるのが特等席のように感じられるから。そしてなにより、稀にこんなやり取りを見られるから。バスに乗ってきた客と運転手の会話に加え、透明のアクリル板を隔てて、運転している姿を見ることも出来た。大きなハンドルをぐっと握り、なにやら細かいボタンをカチャカチャ押したり、同じ会社のバスとすれ違う時に手を挙げて挨拶をしていたり。そんな広い景色をぼーっと眺められるのが好きで、空いている時は決まってここに座った。

思えば、大学の4年間は電車よりバスに乗ることが圧倒的に多かった。最寄り駅までは徒歩20分かかるのに比べ、バス停は家から徒歩1分。学校も吉祥寺も荻窪もバスで行けたから、大体のことはそれで完結できた。

上京したら都会人らしく電車に乗って颯爽と登校するのだろうな、などと想像していた田舎者の私、どんまい!

めっちゃ揺れるし、クセの強い運転手はいるし、当たり前のようにダイヤを無視して走るけど、雪が降っても台風が来ても運休にはならなかった。バスに乗って、ゆらゆら揺られて、カクカクでつんつんだった大学生の心はほんの少しだけ丸くなっただろうか。

@aza_rashi
日々のやわらか煮込み