3.あめ、あめ、あめ。

aza_rashi
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連日雨が降っている。傘をさすかささないかギリ迷う程度の小雨は好きじゃない。天気におちょくられているとさえ思う。先日まで気温は15度を超え、さくらのつぼみを見ては春の訪れを感じていたというのに。上着を投げ捨てて自転車に乗り、ぽかぽかの陽気の中、花見団子フラペチーノを飲みにいくという私の完璧で素敵な計画はどこへやら。スターバックスの限定品は入れ替わりが早いから、そんなご機嫌な天気が訪れる頃には花見団子フラペチーノとはもう会えない気がしている。さようなら。また来年。

ずーんと落ち込む気分に追い打ちをかけるように、今朝はバスの中に折りたたみ傘を置き忘れた。降りてすぐに気がつく。なんたってその時も雨は振り続いているのだ。私の傘を乗せて走り去るバスの後ろ姿を阿呆みたいな顔で眺める事しか出来なかった。無力。

学校に着く頃には、朝眠たい目を擦って必死にアイロンを通しケープで固めた前髪もびしょびしょでくるくるのぼさぼさになっている。今日1日これで過ごすの嫌すぎーと思いながら、憂鬱な気持ちでバス会社に電話をかける。ビニール傘なら見送っただろうが、数年前にしまむらで購入したその折り畳み傘を私は存外気に入っていた。電話がつながり諸々説明すると、どんな特徴の傘を忘れたのか尋ねられる。「折り畳み傘で、黒くて、えーと、黒いやつです」 なんだこの説明。気に入っていると言う割に、模様も形も全然思い出せないじゃないか。自分の持ち物はもちろん、周囲の人も物も、よく観察できていると自惚れていた自分に往復ビンタを食らわせたくなる。

そんな調子ではあったけれど、私が乗っていたであろうバスにそれらしき折り畳み傘が忘れられていたことが分かり、学校帰りに取りに行くことになった。 雨に降られながら、これまた前髪をぼさぼさにしてバス会社に向かい、案の定忘れられていた傘を受け取る。

人生ってこんなものだよなとつくづく思うのだけれど、傘を手にし外に出た瞬間雨がやみはじめる。今日1日、雨を受け止める予定で家から持ち出され、ほんの数分しか開かれなかった折り畳み傘にほんの少しの申し訳なさ。雨はあがったけれど、何かを取り戻すみたいに、湿った空に向かって傘を広げてみる。白いハートのレース模様がパッと花開くのが見えた。

@aza_rashi
日々のやわらか煮込み