6.もじもじ

aza_rashi
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引越しに関する書類が届いた。記入したものを不動産に送らなければならないので、急いで取り掛かる。大学生になってから、文字を手書きすることが極端に減った。レポートはほぼ全てWordで作っていたし、授業中のメモも、パソコンに打ち込んでいた。この日記に関しても、初めは原稿用紙に綴っていこうと考えていたのだけれど、文章を思いついたまますらすらと書けない私は、気軽に編集できる機能がないと不安で仕方がなく、こうしてスマホでポチポチと打ち込むスタイルに落ち着いた。最近になって、友人とアナログな交換日記を始めたので手書きをすることが少し増えたが、それまではこういった資料を書く時くらいしかペンを握っていなかったように思う。久しぶりに文字を書こうとすると、それまでの文字の癖やペンの運び方を忘れてしまったのか、なんだか不格好に見えた。特に、自分の名前。いくつか記入する欄があったのだが、なんだかへにょへにょしている。前まではもっとかっこよく書けていた気がするのに。

私は他人の記名を見るのが好きだ。人それぞれ文字の癖はあるが、名前にはそれが特に顕著に表れるように思う。テストの記名欄や、作文、上履きのかかと、荷物を受け取った時のサイン、ポイントカードの裏。挙げればキリがないが、何度も何度も書いていく中で時短のために繋文字になったり、独特の癖がついていたり。そんな文字を見ていると、ああ、この人はこの文字を何百回も何千回も擦り切れるほど書いてきて、ここに辿り着いたんだな、と感じる。その短い文字列に長い時間の流れと、その人の生活が少しだけ垣間見えるのが、なんだか心地よくてとても好きだ。

こうして無機質な文字で日々の出来事や気持ちを綴ることが当たり前になってしまった自分に一抹の寂しさを感じる。手書きの文字が持つ温度感や手触り、その人の人生の背景をできることなら知っていたい。せめてそんな人間でいられたらいいな。

修正テープで消した自分の名前が少しだけはみ出して、こっちを見ている。もじもじするな。文字だけに。

@aza_rashi
日々のやわらか煮込み