崖の上の鯛2

azr
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女性はベリーショートの髪の毛を風になぶられながら、じっと料金表を眺めていました。やがて小さな口を開くと、「なんで?」と言いました。

「いらっしゃいませ。そして申し訳ありません」

「あ、え、まだ営業してない?」

「いいえ、絶賛営業中です」

「でも……」

「はい……」

私は空のショーケースを手で指して、頭を下げました。

「いま商品を切らしておりまして……」

困ったことというのは他でもない、たい焼きがここに一つもないという問題なのです。

「いや、さっきまではあったんです」

「あ、あの」

「でもそのぉ、今日もどうせ人が来ないんだろうな〜と思って…お腹が空いてしまって…」

「ああ……」

「材料を持ってきてもらっているところなんです。たぶんあと一時間くらいできます」

「たい焼きを焼くのにはどれくらいかかりますか?」

「うちはこだわってますからね」

私は胸を張りました。

「一時間ほどでしょうか」

「つまり、二時間かかるんですね…」

私たちの間を、冷たい風が通り過ぎていきました。女性は細かく震えています。

「やっぱりわたし…」

背中を向けようとする女性に、あわてて声をかけました。

いけません、せっかくのお客様です。逃がしてなるものか。

「……中で待ちますか?」

果たして。

「……そうします」

女性はちいさく頷きました。

つづく