女性はベリーショートの髪の毛を風になぶられながら、じっと料金表を眺めていました。やがて小さな口を開くと、「なんで?」と言いました。
「いらっしゃいませ。そして申し訳ありません」
「あ、え、まだ営業してない?」
「いいえ、絶賛営業中です」
「でも……」
「はい……」
私は空のショーケースを手で指して、頭を下げました。
「いま商品を切らしておりまして……」
困ったことというのは他でもない、たい焼きがここに一つもないという問題なのです。
「いや、さっきまではあったんです」
「あ、あの」
「でもそのぉ、今日もどうせ人が来ないんだろうな〜と思って…お腹が空いてしまって…」
「ああ……」
「材料を持ってきてもらっているところなんです。たぶんあと一時間くらいできます」
「たい焼きを焼くのにはどれくらいかかりますか?」
「うちはこだわってますからね」
私は胸を張りました。
「一時間ほどでしょうか」
「つまり、二時間かかるんですね…」
私たちの間を、冷たい風が通り過ぎていきました。女性は細かく震えています。
「やっぱりわたし…」
背中を向けようとする女性に、あわてて声をかけました。
いけません、せっかくのお客様です。逃がしてなるものか。
「……中で待ちますか?」
果たして。
「……そうします」
女性はちいさく頷きました。
つづく