3年半ほど前、初めてのバイト代で買ったヘッドホン。
ヘッドバンドの端にはヒビが入り、イヤーパッドは所々剥げている。
でも、なぜか買い替える気にはならない。
あの時の僕には、あらゆるものが最低賃金の掛け算に見えていた。
ヘッドホンの場合、掛ける数は10くらいだった気がする。
バイトを始めたての僕にとっては間違いなくストレスのかかる時間だ。
慣れればそんな大変なことではない、と言われれば確かにそうだ。
でも、僕はヘッドホンを付けるたびに、あの時の感情を今のように思い出せる。
歳を取れば、お金に対する価値観は変わるかもしれない。
だけど、その時の感情を思い出せるように少しは手がかりを残しておきたい。
幼い頃、親に100円玉をもらった時の喜びを忘れたくないのと同じように。