やまびこ

Azuma
·

学会からの帰り。

広島から仙台、そして東京という謎のルートを辿っていた。

僕が乗るのは仙台から東京への最終便、やまびこ。

嫌な予感がしていた。

平日限定早割のキャンペーン。早々に埋まるはやぶさ指定席のネット予約。

それでも、最終便の自由席なら―。

淡い期待を抱き、仙台空港アクセス線から一直線に新幹線乗り場へと向かう。

視界が開けた。

眼前に広がる光景に言葉も出なかった。

ホームに人が並んでいるのではない。

ホームが人で埋まっているのだ。

終わりの見えない列、それをもはや列とは呼べず、渦巻き状になっていた。

僕は最後尾の中でもさらに最後尾。

「今日中に東京に戻れるのか」という不安が頭を過ぎる。

列車が到着する。盛岡からの乗客で座席はほとんど埋まっている。

その隙間を縫うように、仙台駅の人々が車内に流れ込んでいった。

「え…」

流れが止まった。

ホームにはまだ10人ほど残っており、瞬時に緊張感が走る。

ドア付近の人溜まりをめがけてタックルするおじさま、遠くのドアに可能性を見出して駆け出すおばさま。

僕。

最終便の自由席なら空いてるだろうなんて、考えが甘かった。

これは、サバイバルだ。

僅かにスタートダッシュが遅れたのは2人。

僕と、おじさん。

スーツを着ているので仕事帰りだろう。可哀想に。仕事でもう疲れたろう。

「出発時刻を過ぎております。急いで車内にお入りください。」

アナウンスを通して駅員が急かしてくる。

大変な状況なのは、この2人が誰よりも分かっている。

催促ではなく冷静な分析が欲しい。

おじさんが走り出した。

列車の先頭から任意の隙間を探して。

僕はただひたすらに、おじさんの背中を追って走った。

5車両分ほど走った。

まだ隙間は見つからない。状況は最悪だ。

でも、おじさんが居たから寂しさは感じなかった。

ありがとう、一緒に走ってくれて。

アナウンスに急かされながら走り続けた結果、やっとのことで2人が立てる隙間を見つけた。

2人とも息が上がっていた。

家に帰っても家族はおじさんを労ってくれないかもしれない。

それでも、僕は一緒に地獄を生きてくれたおじさんの背中を忘れない。

@azuma_alvin
こたつでMacBookを開くのが好きです