だれか代わりに読んでください②アラン・コルバン 編『雨、太陽、風 天候にたいする感性の歴史』(小倉孝誠 監訳/藤原書店)

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公開:2025/2/1

表紙の装画、一周まわってもはやたのしそうな悪天候である……


 昨日唐突にはじめた「だれか代わりに読んでください」シリーズ、早速2回目を更新。

アラン・コルバン 編『雨、太陽、風 天候にたいする感性の歴史』(小倉孝誠 監訳/藤原書店)


 天気が悪い日は、あるいは天候の変化が激しい日々が続くと、本屋には人が来なくなる。少なくとも本屋lighthouseはそうであり、おそらくこれは灯台の名を冠する本屋をやっていることと関係があるのだろう。荒天の海に近づいてはならない。

 そうして今日も寂しげな時間を過ごしており、“お客さんが来なくて絶望しているときに更新”すると言ったそばから早速2回目の更新をしている。大寒波。明日は雪も降るかもしれない。そうなればきっと客は来ないし、お客さんが入っていない店内は比喩ではなく本当に寒い。まるで冷蔵庫内。ひとりきりの節分イブ。際限ない(cool)。氷Night。山下達郎のことは好きではない。

“天候”を愛し、それに振り回される私たちの「感性」の歴史

雨、陽光、風、雪、霧、雷雨、暴風雨……といった気象現象への感情や政治的・芸術的価値づけは、歴史上いつごろ出現したのか。その誕生と変化、そして、「天気予報」に一喜一憂する現代社会までを、“感性の歴史学”の第一人者コルバンのもと、歴史学、文学、地理学、社会学、民族学の執筆陣が多角的に問う。

 そういえば数年前、はじめて札幌の雪まつりを見にいったときも大寒波だった。札幌の人が「今日は寒い」「やばい」などと口にしている寒さだった。函館山にも行ったが、視界は真っ白でなにも見えなかった。函館山には高校生のときにも行ったが、そのときは濃霧で真っ白だった。修学旅行で訪れた阿蘇山も、濃霧でカルデラを見ることができなかった。麓にあるお土産屋さんの駐車場で集合写真を撮った。

 それ以外にも、旅の記憶はおおむね悪天候で彩られている。たとえば鶴岡八幡宮の御神木が倒れたその朝にも、私は境内にいた。前日、江ノ島にある洞窟にまさに上の装画のような強風&豪雨のなか乗り込んだ17歳の私は、藤沢のホテルに1泊し、翌日の早朝、なんか有名らしいという高校生っぽい理由で鎌倉のお宮に向かった。参道の中央に位置する階段に向かって、大きな木がもたれかかっている。折れてるな〜。なるほどだから有名なのか。などと思いながら同じく境内にある池に向かい、鳩と戯れて千葉に帰った。帰ってテレビをつけたらさっきいたところだった。確かに頭上ではヘリコプターが旋回していて、巫女さんは全速力で走っていた。その数週間後、私は高校の遠足行事で鶴岡八幡宮にいた。もう御神木はなくなっていた。数週間後に遠足でいく予定になっていた場所になぜひとりで行ったのかはいまだにわからないが、あの場にいた同級生400名ほどの中で倒れている御神木を目にしたのは私だけであろうことを思うと、なんだかしてやったりな気持ちになる。しかし写真を撮っていなかったので、だれも信じてくれない。

 雨を降らせてばかりいる、アメフラシの私は本屋には向かないのかもしれない。少なくとも「本(屋)」にとって雨は天敵である。お客さんが来なくなるだけではない。本のカバーはぺろんとめくれるし(ツルツル素材のは特に!)、ふだん店前に並べている雑誌とかはむりやり店内に置くため周辺がごたつく。濡れた状態でお店に入らざるを得ないお客さんは、どれだけ慎重に動いても纏っている水滴を落としてしまう。せっかく来てくれたのに……。

 じゃあ晴れていればいいのかというとそうでもない。太陽光線を浴び続けた本は色褪せる(電気由来の光でも同様だが)。そもそも暑いとお客さんは来ない。暑さを和らげてくれる風も、最近勢いづいている屋外でのブックフェスでは天敵となる。雨、太陽、風。そのすべてが本(屋)にとっては敵となりうる。

 それでもやはり、記憶に残っているのはそういう悪天候に悩まされた日々だったりする。久しぶりに幕張に大雪が降った日、ただひとり閉店間際にやってきたあの人は本当に「famous singer」だったのだろうか。"I'm singer in NY. 3000000 people follow me! I wanna know your phone number."と書かれた紙はいまだにとってある。肝心の名前が書かれていないので確かめようがないのだが、その人がビニール傘を忘れて行ったことだけは確かである。うってかわって晴天となった翌日、郵便局で大きな荷物を送ろうとしているその人を見かけた。私は話しかけなかった。複雑に絡まり合った感情と理由による極私的な逡巡がそこにはあった。だれかが代わりに訊いてくれればいいのに、と思った。

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