ヘッドライトだけを頼りに街灯のない真っ暗な道を走っていると、まるで道の外にはなにもなく、この道は中空に浮かんでいるかのような錯覚に陥る。銀河鉄道みたい。雨上がりの冬の空はとんでもなく澄んでいて、車の中からオリオン座が確認できる。むしろおっかない。月もない夜はひたすらに暗く、満月の夜はとんでもなく明るい。長距離運転は瞑想に似ている。感情や判断を手放し(実際には交通法規に則って判断をしているのだが)、今ここにいる自分がただ反応しているだけのような。興奮から離れ、緩慢なのとも違う、ただ移動しているだけの物体になる。思えば昔から移動というものが好きだった。なんの乗り物にせよ乗車するときが一番面白くて、下車するのは心底残念な気持ちになった。ずっと乗って移動していたいんだよ。どこに行くかではなく、移動そのものに目的がある。なので、山手線で隣駅に行くのに反対方向に乗ってほぼ一周したり、日帰りくらいの高速バスにあてもなく乗ったりした。移動中は風景や街並みを眺めてもいたけど、ずっとなにかを考えているような気がする。気がする、というのは、大してそれらが実になっていないからなのだけれども、スマホやラジオもない時間に、ただ浸っていられる幸せな時間だった。なつかしいね。