あとひとつき

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あとひと月でOJTが終わる。

私なりに真剣に前向きにも後向きにもめちゃくちゃ悩んだ一年だった。喉元過ぎれば大体の熱さは忘れるのが私の長所でもあるけれど、自分への労いと、思考整理と、あとの1ヶ月の過ごし方を考えるためにちょっと書いてみようと思う。

ただの長い愚痴になってしまう気がするけれど。

4年目でOJTになるというのは弊部署の業務としては割と早めで、特に入社後3年間を2度の震災とコロナ(休業補償の受付が災害級だった)を経験し、業務の波に溺れていた私は自分の仕事の型みたいなものがゆるゆるのまま、しかし中堅が退社や産休により不在になったのでお鉢が回ってきた。

そんな中でもOJTをするうえで勝手に自分の中の一つの軸にしていたのが、配属決定の日に新人ちゃんに送ったメールの「1番の味方でいる」という言葉だった。どうしようかと悩んだ時にはいつもここに立ち返っていた。優秀な先輩、優しい先輩でいることはできなくてもいつも味方でいてくれたなと、そういう存在が新人の時の自分に必要だったと思うから。結果、その軸が1番私を苦しめたわけだけど。

OJTのしんどいところは、なんてったって自分の業務と並行しているところだ。私の仕事の場合は事故を受け付けて、書類などで情報を確認して、稟議をして支払っていく。当然受付から支払いまでにはそれなりに時間がかかるので、常に在庫が250件くらい手元にあって、それぞれがランダムに動いていく。新しく入る件数は割合で傾斜をかけることができるのでOJT始めたてのころは50%にしてもらってたけど、新人が3月にむけて順調に育っていくことを前提として後半は一緒に仕事量を100%に戻していく。でもまあそんなうまくいくはずもなくて、新人ちゃんはどんどん仕事が回らなくなっていったのでOJT業務と一般業務がどっちも増えていくような状態だ。私の残業時間は目に見えて増えていった。(一応組織として、新人ちゃんの回らなさも鑑みて80%で2ヶ月据え置きの状態にはなった)

これは新人ちゃんのいいところであり、私が苦しいところでもあるんだけど、マジで素直だし真面目だし責任感もあるし頑張り屋さんである。OJTじゃなくただの先輩だったら毎日よく頑張ってるねって褒めてあげたい。じゃあ何がそんなにしんどいかというと、圧倒的に想像力が欠如してる。多分全てはここに尽きる。結果悪気なく失礼で、悪気なく押しに弱く、悪気なく時間に無頓着で、仕事が回らなくなる。

OJTの仕事のミニマムは最低限の仕事の進め方を教えつつ聞かれたことに答えることだけど、OJTになると新人ちゃんの仕事、その日のTODOが全部見れる状態になる。本来自分の状態を分析してて回らないなら回らないからどうしたらいいかというのも新人ちゃんの方からできるようになる必要があると思うし、そのためにフローチャートみたいなものも用意してアドバイスもしてきたつもりなんだけど、彼女はいつも「気づいたらこの状態でした」になるし全部手遅れになった19時ころ(弊社は20時でシステムが止まる)に泣きつかれる。

いくら私の仕事じゃないといっても、私が彼女の仕事を全部見れる状態にある以上、そして常に気にかけるべき立場でいる以上、どこまで手を貸して、どこで手を離すか…という判断を毎日毎分毎秒し続けなければいけないのがキツかった。困った方が本人のためとは思いつつお客様に直結する仕事である以上限度がある。

手を貸しても後悔した。手を貸さなくても後悔した。ずっとずっと自分が間違っているような気がする。もっと上手くやれる人が他にいる気がするし、だんだん新人ちゃんが回らないの自体が私のせいなんじゃないか、私の教え方が悪いんじゃないかと思うようになった。

正攻法はいつだってしんどい。でも正攻法を教えるのが私の仕事だ…と私は思っている。原則を知らずにやっていける仕事ではないから原則を教えるし、なるべく「どうしてそういう仕組み・ルール・方法になっているのか」やその記載されている場所も教えるようにしていたけれど、それもこれも時間がかかるから、回らなくなる。でもいろんなところにある情報を自分も理解して噛み砕いて伝え方を考えて…新人ちゃんに教えるまでに、1番時間を費やしたのは私自身だ。その上で、時間がかかるのは分かってるからと彼女の仕事の何割かは引き取ったりして量も調節した。

仕事の量の調整をするのはマネージャーである課長の仕事ではあるけれど、正直これ以上仕事量を減らすのは本人のプライドも傷つける形になる。その間で状況を分析したり、どの情報を誰に渡すか、誰に相談するか、そういう小さな判断を一身に引き受けなければいけないのもとても辛かった。「正解がない」のは分かっているつもりだけど、「正解がない」ところに判断を下していく日々は、同時に自分が間違っているんじゃないかと悩み続ける日々だった。

あとやっぱり年次的に、新人のしんどさが分かってしまうというのもキツさに拍車をかけた。共感をしない方が割り切れると思うし、別にOJTの業務上は私の感情ってそこまで重要じゃない…というか邪魔になることも多かった。

常に背中を押してあげるべき立場の私は、彼女の何か至らないところを見つけたなら、どうしたら改善できるかを考え続けなければいけない。そこに私の感情は要らない。

なのに懸命に説明している内容が複雑になるにつれ「みのりさんは勉強好きですもんね」とか、苦手な会議の進行を終えたあとに「みのりさんは得意ですもんね」と言われるときの腹立たしさ。残業計画通りに進めるために自分の仕事そっちのけで1時間かけて彼女の仕事の整理をして、あと15分で終えようね!と声をかけたのにラスト2分でお菓子を食べ始める姿を見た時のやるせなさ。そういう自分のどうしようもない感情を、どこに持っていけばいいかわからなかった。叱るにしても正しく叱りたいからと必死で感情を噛み潰したけれど潰しきれず、何度も黙って指摘するタイミングを逃してしまった。

そしてこれは本当に彼女に関係のないことだけど、私の新人時代と待遇が違いすぎた。冒頭で在庫は250件と書いたけれど、標準値は170件程度と言われているなか、災害が続く中私の1年目後半から3年目までの受け持ちは300件、ひどい時は350件までになった。さらにしんどかったのは、その超繁忙の中で誰もが新人を気にかける余裕を失ったことだった。「ふつう」の基準も分からないままオーバーワークを続けた私は1年くらいずっと自分が無能だからこんなにしんどいのだとばかり思っていた。3年目までは80%にセーブされるはずだった仕事量は上限解放されてベテランの皆様と同じ量を背負わされた。当然回るはずもなく毎日ギリギリまで残業しつつも督促に謝り続ける日々だった。こんな状態ではお客様に提供するサービスとして問題があると、体制の問題だと気づいてからは上司にも課長にも部長にも直談判して人を増やしてもらった。新人が背負うべき庶務を契約社員の方に引き継がせてもらって、私の代で半分以上の庶務を無くした。本当に必死だった。本当に辛かった。

なのに今の新人ちゃんたちには、手厚いサポートが付いている。助けてくれる人、気にかけてくれる人がたくさんいる。この数年で業務量も大幅に改善されたし、もう彼女たちに引き継がれる庶務もほとんどない。これでいい。これが正しい。なのに過去の私が恨めしそうに顔を出す。恨むなら私にそういうサポートをできなかった先輩方を恨むべきなのに、明らかに違う待遇を見続ける中で新人ちゃんに「なんでこんなに助けてもらってるのにそんなにしんどそうにするの」と思う瞬間も多々あった。その度にまた、自分を責めた。あの日の私を救ってくれる人はもういないのに。

もっと明快に教え、明快に指摘し、明快に割り切りたかった。道に迷わせない人でありたかった。なのにどうして私はこんなに弱いんだろうと泣きながら帰った日は何度あっただろうか。

私なりの「一番の味方でいる」は彼女を諦めないことだった。明快ではなくともよく見て、よく話して、上司にも相談しながらなんとか今日より明日の成長を後押しする方法を考え続けることだった。今日より一歩でも前に進み、少しでも自分で歩いていく力を身につけている「明日のあなた」を信じ続けることだった。どれだけできたかは自信がないけれど、悩まなかった日は一日もないのだから、0じゃないと信じたい。

いいOJTオンニではいられなかったかもしれないけれど、頑張ったよ。新人ちゃんも頑張った。また月曜日からも頑張ろう。三月の最後まで、そしてその先も、きっと彼女の1番の味方で、彼女の頑張りを1番近くで見てきた人間として。