「銃兎と何かあったのか」
事務所へ来ていた理鶯が、突然そう問うてきた。
何か。あっただろうか。直近のあれこれを考える。特段、尾を引くようなケンカもしていなければ、組の関係でゴタついてもいない。だから、俺は率直にそれを否定した。
「いや、別に」
「そうか、では小官の思い違いだったようだ」
大柄な迷彩服はひとり納得して、話をこれで切り上げるつもりのようだった。しかしそれでは、こちらが気になる。
「……何かあったのかよ」
「あったのかと思ったが、なかったようだ」
いや、そうじゃなくて。
まったく答えになっていない返答に、顔をしかめた。が、この相手にはなんの意味もない行為だ。
「理鶯、」
「随分と機嫌が良さそうだったが、しかし左馬刻とは無関係だったか」
なんだそれ。
つい癖でマイナスの方に考えていたが、思わぬ方向へ転がった話に、口をつぐんだ。心当たりが、無いわけではないので。