事務所へ呼び出されたので顔を出したら、組員総出で大掃除の真っ最中だった。
「まさかこれを手伝えって話じゃないでしょうね」
「さすがに言わねぇわ」
そこ、とアゴで指された執務机の上には、A4サイズの封筒。それを手に取り中を確認すれば、なんてことはない、先日銃兎が頼んだ書類であった。
「だから、別に今日じゃなくていいっつったの」
確かに言われた。たまたま時間ができたから、今日寄ったのだ。
左馬刻は自ら雑巾を持ち、蛍光灯の掃除――背の高い人間の宿命だ――に精を出している。あちらでもこちらでも、同じように雑巾掛けだったり書類や物品の整理をする人間ばかりで、銃兎がここに居ればいるだけ邪魔になることは明らかだった。
「ありがとうございました……では、頑張って」
「おー、じゃあな」
それだけ交わすと、そのまま事務所を出て、ビルの階段を降りる。茶でも飲んでいけよ、といつもなら掛かる声もなく、先日一本貰ったお返しにと買っておいたラキストのパッケージを渡しそびれたことに、今さら気がついた。
誰に聞かせるでもないため息が口からこぼれる。物足りなさを感じてしまっていることを、残念ながら自分自身の心からは隠しようもないのだ。