目覚めたらまだ起床予定時刻よりも早く、ならばもう少し、と二度寝したのが良くなかったのだ。浅い眠りのせいで、見たくもない夢を見た。次に起きた時には酷い気分で、銃兎は一時間前の己の判断を呪った。
ヘッドボードの眼鏡を手に取り、掛ける。クリアになった視界の端で、ふとんの膨らみがもぞもぞと動いた。薄着で寝るから、朝方の空気が肌寒いのだ。首まですっぽりと埋まり、枕との隙間にかろうじて見える後頭部。クシャクシャになったプラチナブロンドが目に留まり、整えるように撫でつけた。
手のひらに伝わる少し高い体温と、きれいな頭のまるみ。
この男が起きるのは大抵もうしばらく後で、きっと今朝も顔をあわせることなく自分は出勤してしまうだろう。
「おはよう」
誰にも届かないはずの言葉は、思ったよりずっとやさしい音で響いた。