なんのことはない一言に、気持ちを乱される時がある。連勤が続いている時。上から厄介な案件を押しつけられた時。ようやく捕らえられると思った薬の売人に、まんまと逃げおおせられた時。
疲れているのがいけない。それから、身体が冷えているのも。
いつもなら聞き流せるようなつまらない言葉に、神経を逆撫でられる。喉元に大きな塊がつかえているような息苦しさ。迫り上がってくる苛立ち。衝動的に叫びだしたくなるのをどうにか堪えて、奥歯をきつく噛み締める。そうやって、これまてずっと、やり過ごしてきた。
『よぉ、どした』
スピーカー越しに、少しくぐもった声。ザラついた低音が心地よく耳に響く。
呼吸が、ラクになる。肺に酸素がめぐる。そうすると視界が晴れて、怒りが薄れていく。
『銃兎?』
小さく息を吐いた。
もう、大丈夫だ。