41日目

bebe_be8
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あ、寝てんのか。

並んで座っていたソファーの片側。視界の端にいる男の動きがなくなったな、と思ってから数分経った後のことだった。壁の大きなスクリーンには、配信が始まったばかりの話題の邦画。まだ物語が動き出す手前で、確かに盛り上がりはないが、それでもこの男が途中で居眠りするのはめずらしかった。

今日が仕事納めだと聞いていたから、帰宅を見計らって押しかけた。もっと驚くかと思ったが、家主は存外平然とした態度で左馬刻を招き入れたのだった。「そんな気がした」と。どんな気だよ。

こちらへ傾いてくることもなく、背もたれに深く身体を預けたまま、器用にバランスを保って寝入っている。その手に握られたままのビール缶だけそっと取り上げて、目の前のテーブルに置いた。ほとんど空っぽの缶はガラスの天板に当たるとコンッと軽い音が鳴って、それが案外この空間に響いたものだから、らしくもなく、起こしてしまうのではと内心焦ったのだ。

ところが男は少しも気にする様子もなく、眠り続けている。左馬刻は身体を直して、スクリーンに視線を戻した。左馬刻の趣味ではない。観たいと言った本人が観ていないのだから消してもいいとは思うのだが、なんとなくそのまま流し続けようという気になった。

終わったら、起こしてやろうか。なんだお前観てなかったのかよ、と笑いながら。きっと少し悔しそうな顔をして、「気づいてたなら起こせよ」と言い返してくるに違いない。