フルアルバムとしては3枚目。「NIGHT ON FOOL」の感想文です。
ジャケットに4人がそろうのはデビューアルバム以来。ミニアルバムMOTEL RADIO SiXTY SiXのときに感じた「バースデイとしてのグルーヴができてきたのでは?」という予感がジャケットでも提示される。
そしてその予感はあたっていて、改めてシンプルに自分たちが思うロックンロールを鳴らしてみよう、という作品になっているように思います。全体的にシンプルなエイトビートが続く。
とはいえ音楽的にはミッシェルの頃ほどシンプルにガレージロック一転ばりではなく、ミドルテンポの曲からまるでブランキーのような曲まで、音楽的な幅を含んだうえで、それでもスコープは「エイトビートのロックンロール」からブレないように作られているなと思う。潔いなとも思うし、似たような曲調が続くので人によってはダレるかもしれないですね。ここからはみ出た曲がミニアルバムにいったのかな、だからミニアルバムはあれだけ幅広く聞こえたのかなぁと思います。
というわけで、ざっと曲順通りに感想を。「あの娘のスーツケース」から幕開け。シンプルなロックンロール。フルアルバムは「シャチ」「バブスチカ」と同じような曲調で幕開けてきたので、今回も同じ展開。わざと似せてきてるのかな?わざと寄せると面白いのは、似た曲調を各アルバムで演奏することで、アルバムごとのグルーヴの個性がでること。このアルバムではベースの音量なのか強度がぐんとあがって、音圧強くぐいぐいひっぱってくる。どうやらベースのハルキ覚醒のアルバムなのかも?と思い聞きすすめる。
「まぼろし」を聴くとどうやらそれは正解のように思う。今まではキュウがチバを知ってたからグルーヴの素をつくって、そこにイマイが味をつけるような作品が多かった。この曲はシンプルかつ力強いハルキのどっしりとしたルート音のうえで、各楽器が自由にやってる。ドラムすらベースにのっかってるのでは?と思うほど。かと思えば次の「ビート」は曲名通りキュウのシンプルなエイトビートの上でベースがうねるうねる。リズム隊の成長を序盤で見せつけたい思惑がつたわります。かっこいいし、何よりバンドのそのときの「今」を刻もうとしているのが伝わって、それがうれしい。こうやって、後追いで聞いているからこそ。2008年、チバが生きていて、なんならまだアベも生きていた頃の、武道館公演をはじめたころのバースデイがここにはいる。音楽はそんなところまでパッケージされるからいいね。
その先の「ビート」から全体を通して、音楽的にはシュッとしまった、エイトビート主体のロックンロールが続く。アルバム2枚を通して、「The Birthdayってこういうことかもしんねえわ」っていうチバのニヤニヤがみえてくるかのよう。パッと聞き単調といえるぐらいだけど、それは今までのアルバムがいろんなトライを模索したからで。やっと立ち位置が定まったアルバムと捉えてよさそう。そういう模索の結果を作品に残すのは大事なことだよね。その時代のThe Birthdayがちゃんと時間が止まったかのようにパッケージされてるように聞こえます。
そうやって立ち位置が固まったせいか、どこかで禁じ手にしてたような、ミッシェルやROSSOっぽい曲も「今ならやれまっせ?」とここぞとばかりにやっている気がする。「猫が横切った」はROSSOっぽいし言ってしまえばベンジーっぽい。言っちゃえばちょっとジェッタシー感すら。わざとやらなかったことも今ならThe Birthdayのグルーヴで鳴らせるぜぇ、という自信に満ち溢れた感じが聞いていて楽しい。続く「グロリア」もギターの感じがまんまベンジーで、なんならベースも照井さん感がある。それをキュウちゃんのタイトなリズムとチバ節のメロディと声で「いや俺たちバースデイなんで」と有無を言わせない感じ。それがとてもよい。
あと面白いなと思うのが、このアルバムはバースデイがライブしてる絵がすごい思い浮かぶ。その映像では俺の中ではチバがずっとギターを弾いてる。ミッシェル育ちの俺としてはハンドマイクのチバもよくみたけれど、このアルバムでは間奏でギターを見ながらリズムギターを大事そうに弾いてる姿ばかり浮かぶ。このアルバムの時期になると俺はライブをもう見ていない頃なので、それなのに映像が浮かぶのはバースデイってこんな感じよ、が音に閉じ込められてる証拠なんでしょうね。
シンプルでかっこいいねぇ、前よりきれいで儚い音も鳴りますねえ、と他のことしながらアルバム聴き進める。「タバルサ」「かみつきたい」「シルベリア19」「ローリン」「マスカレード」。何回かきいたけど、このアルバムはいい意味で聞き流せますね。チバの世界がどわーっと入ってくるよりは音の気持ちよさにフォーカスしてる気がする。
が、聞き進めていくうちにいつも途中で耳が止まる。これはもう意図的な作りだとすら思うけど。シンプルなエイトビートが続いていたところから、ブルージーなアルペジオが始まり、ささやくようなチバの独り言のような、嘆きのような声がひびく。
「電話探した あの娘に聞かなくちゃ 俺さ 今どこ?」
今もバースデイの代表曲として残る「涙がこぼれそう」がくる。このアルバムはこの曲を立たせるための前振りだったのかなとも思うぐらい、この入る瞬間に心つかまれる(にしてはちょっと前振りながすぎるし若干飽きますけどもw)。
バースデイの音とはこうだよ、と思わせてくれる特徴に、どこか乾いた音、隙間のある音で、ギターは少し儚くなっているところがあったと思う。展開はコード進行よりも歌のメロディやベースのグルーヴで展開することも多い。
でもこの曲は、このアルバムで唯一といっていいぐらい、チバの感情をコード進行にぶつけたんじゃねぇかってぐらいコード進行がエモーショナルである。泣きのギターポップ、みたいにいっちゃうと急にダサいんだけどw ミッシェルでいうと「世界の終わり」が実はそうだった。あとは「ダニーゴー」とかが該当するんだろうか。ROSSOなら「シャロン」や「星のメロディー」、「1000のバイオリン」。特にROSSOであげた曲に近いぐらい、音をきいてるだけでこっちの感情を爆発させてくる。
詩もすごいな。こんだけの曲だとさすがに歌詞をちゃんと読もうと思ったら、バースデイが表現したかったことの歩みが全て刻まれているかのようだった。
「世界の終わり」をはじめとする、ミッシェルでの「どこかであきらめながら、それでも俯瞰で世界をみている」感じとも違う。ロータリーに倒れてた、までなら今までも歌ってかもしれない。ロンドンパンクも聞こえてたと思う。でも「立ちたくなかった どうにでもなればいいって」なんて言葉は、これまで絶対に言わなかった。弱い部分をぽろっと見せてもいいんだ、というのがバースデイの新しい世界。「TEARDROP」の「KAMINARI TODAY」がそうだったように。これはもっと踏み込んで、そのまま個人の感情としてどストレートに歌っている。
チバがずっと封印してきた世界を、開き始めている。こういう部分をみせることはかっこよくないと思っていたであろうチバが。
チバは、わかっていたけれど、とても感受性豊かなひとで、見えている世界が美しい人で。見えていることを、そのまま見せることよりも、かっこよく少しニヒルにぼかしながら見せてきたのがこれまでの作品だったと思うけど。見えているものをそのまま描いてみたのがこの曲なんじゃなかろうか。もう言葉の気持ちよさでもなんでもない。「俺はちょっとだけ嬉しくなって立ち上がる」なんて、もうチバ語でもなんでもなく、J-POPの歌詞ですらなかなか恥ずかしくて使わない言葉である。でもこれを前のくだりとあわせて、どストレートにいうことで、あああっとこっちに思わせる。
すげえ曲だなこれは。この一曲のためだけにあるアルバムといっても過言ではない。アルバムタイトルは「NIGHT ON FOOL」。この曲の始まりも壊れそうな夜から始まるし、この曲の世界観に向けて作られたアルバムととらえてもいいのかもしれないですね。
そしてその曲がおわったあとの「カーニバル」がわかりやすいぐらいエンディングっぽいスカッとした曲。音色や声こそ全然ちがうけど、曲の展開がピロウズやBUMP OF CHICKENを思い出したりする、ギターロックバンドのライブラストの曲はこれ!!って曲で、面白い。いい意味でひとひねりがない、やっぱりこれが最高だよねっていうところをそのまんまやってるところが、チバの音楽をずっときいてきた中だと新鮮でとてもいい。
というわけで聞き終えました!おもしろかった。The Birthdayはこういう音を起点にしてやっていくよ、という所信表明のようなアルバムだと思いました。アルバムとして好きかというと、ちょっと同じような曲調が続きすぎて単調に聞こえる部分も多くて、俺は正直前のミニアルバムのほうが好きだけども、それは自分の音楽的の好みの話なので。このアルバムでやろうとしてることは十二分につたわりました。ミッシェルやROSSOを好きで、バースデイに物足りなさを感じてた人はこのアルバムでうおおってなったりしたのかな当時。そのあたり当時のファンにきいてみたい。
こうなると次のアルバムはきっと、音楽的な広がりを見せるんだろうなという気がする。メロディアスな方向にいくんじゃないかと思うけどどうだろう?楽しみにまってます。